ファイナンス 2018年4月号 Vol.54 No.1
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AMROとAIIBの設立協定は8月の全人代常務委員会に提出、審議され、なぜかAMROだけ会期最終日の8月29日に承認されました。AIIBはその後10月の常務委員会で承認されました。当時日本国内ではAIIBを巡り議論が沸騰していましたが、中国の「法の支配」原則の突然の適用にもかかわらず、また追越しをかけられなかったため、AMRO設立協定は無事全人代の承認を得ることができたことになります。中国株下落と人民元切り下げで市場が混乱する(在任中3回目のリスク・オフ、2015年夏)国際機関設立協定の各国承認については、ごく少数の国を別にして順調でしたが、市場の動きは三たび乱調気味となります。2011年8月の米国債の格下げ、2013年5月のバーナンキ議長の議会証言に続き、2015年夏には中国株下落と人民元の切下げを契機に、世界の市場がリスク・オフに一斉に転じる動きがありました(図(2018年2月号図2に同じ)参照)。7月の訪問の機会に人民銀行幹部とは、中国の金融自由化、国際化の市場への影響やAMROの現状などについて意見交換したと記憶します。その1か月後の人民元の切下げの発表が、中国経済は人民元を切り下げないといけない程減速しているのかと市場に受け止められたことを考えると、市場へのメッセージの発信の仕方についてもう少し時間を取って議論をしておけば良かったと考えています(当方の助言が役立ったというほどの自信もありませんが)。自分の見るところでは、2011年、2013年に続く3度目(自分の任期前の2008年~2009年のリーマン危機を入れれば4度目)のリスク・オフということもあり、東アジア当局の対応は冷静で、落ち着いていました。また為替政策の柔軟化や民間の外貨建て借り入れの抑制などの政策手段も取ってきていました。国内の政治的混乱の影響が加わっている国だけは別で、大きく下げているのが目立ちました。ただ域内最大の輸入国である中国発のイベントだけ法の支配についての街頭広告、2017年11月上海、本文と直接の関係はありません図 市場がリスク・オフに転じた際の新興国からの累積の資本流出入額(2008年、2011年、2013年、2015年)東アジア新興市場国(タイ、フィリピン、インドネシア、韓国)その他地域の新興市場国(ブラジル、メキシコ、南ア、ハンガリー)T=2015年8月(人民元切り下げ)T=2013年5月(バーナンキ議長発言)T=2011年8月(米国格下げ)T=2015年8月(人民元切り下げ)T=2013年5月(バーナンキ議長発言)T=2008年9月(世界金融危機)-20-15-10-50510T-30TT+30T+60T+90T+120T+150T+180T+210T+240T+270USD bnT = day before retrenchment began(T = 0)InowsOutowsInowsOutows-20-15-10-50510T-30TT+30T+60T+90T+120T+150T+180T+210T+240T+270USD bnT = day before retrenchment began(T = 0)(注)韓国及びフィリピンの資本フローについては、データ制約上、株式が含まれない。(出所)AMRO“ASEAN+3 Regional Economic Outlook 2017”, Figure 1.25のデータを基に筆者が再作成したもので、実際に使われたものではない。元データはIIF Daily EM Portfolio Flow DatabaseをAMROが補正したもの。Copyright 2017 AMRO.*8) 伊藤博文(著)宮澤俊義(校註)『憲法義解』(岩波文庫)、岩波書店、昭和15年より引用(40~41ページ)。 ファイナンス 2018 Apr.53国際機関を作るはなしASEAN+3マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)創設見聞録連 載 ■ 国際機関を作るはなし

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