ファイナンス 2018年4月号 Vol.54 No.1
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議院の外交防衛委員会は海外でセミナーに出席中イアフォンを耳に入れてこっそりと視聴しました。他の条約と一括審議だったのですが、質疑が終結し、「討論」の段になって、委員長がAMRO設立協定以外の4442件について議事を進めた時には椅子から転げ落ちるくらい驚きました。AMRO設立協定について「討論」しないのは何か問題があって切り離されてしまったのだろうか、と戸惑いました。さらに議事を聞いていると、両条約についての討論、採決(起立多数4444)の後、すぐさま委員長から「AMROの設立協定に賛成の諸君の起立を求めます」と発言がありました。「起立総員4444、よって、本件は承認すべきものと決しました」と続きました。他の2件の条約は野党から討論の申し出があり、反対する議員もあったのに対し、AMRO設立協定は討論の申し出がなく、全員一致で賛成のため手続きを別にした訳です。日本では委員会前の理事懇談会や理事会の議論に基づき、委員長が綿密な議事進行を進めることを忘れていました。まるで浦島太郎です。いずれにせよ、衆議院、参議院とも全会一致だったのは有難い話で、委員会中の審議の内容から憶測するに、おそらくはAMROというのは、欧米主導の既成の秩序に盲従することなく、東アジアのために貢献しようとしていると与野党から認識されたと理解しました。通信技術の発達のおかげで、数千キロ離れた場所で、印象深い議決を目にすることができました。日本の国会は全員一致で既に可決したというのは、他の国(特に計画経済系の国)への督促材料として利用させてもらいました。仕事柄各国を年に1~2回訪問するのですが、日本の国会のような情報が得られませんから、国会審議はどうなっていますか、と質問すると、丁度今週国会の承認が取れたところです、という国が幾つかありました。自分の訪問が政府内での手続きを督促させるきっかけになったようで、丁寧にお礼を言うと先方が笑顔で喜んでくれました。趣向を異にするコースターとしてある君主制の国でのやりとりが記憶に残っています。その君主制の国では、丁度君主(ないし皇太子)に署名を求める直前だったようで、財務省高官への表敬訪問だったはずが、君主から想定される質問とそれへの応答の準備に付き合わされました。明治憲法13条(「天皇ハ(中略)諸般ノ條約ヲ締結ス」)に関して、伊藤博文が、「今日國際法において、(中略)各國交際條約の事總テ皆執政大臣を経由するは列国の是認する所なり」と説明していること*8をまるで目撃しているかのようでした。「法の支配」の原則のため、全国人民 代表者大会の承認を求めることとなる(2015年夏)7月に中国へ国別訪問の機会がありました。その訪問の時期に国際機関化設立協定の批准について予想外の知らせが伝えられました。それはAMROの設立協定に関して、全国人民代表者大会(全人代)の承認を求めることになったというものです。その年の春までは、中国の場合、他の国の内閣に当たる国務院の承認だけで国家として批准可能で、議会(全人代)の承認はいらない、という説明を受けていました。ところが中国でも「法の支配」の原則の適用拡大のため、国際機関の設立のような話は全人代の承認を得る必要が出てきたということです。「法の支配」の原則の適用拡大は、中国経済の将来にとっても、中国で活動する外国人にとってもたいへん重要なことです。それにしても何で2015年夏からにするのかとは正直思いました。当方より「全人代は毎年3月開催ではないか、中国が年内に成立を目指すAIIB(アジアインフラ投資銀行)はどうするつもりなのか」と聞こうとしたら、先方が先回りして、「全人代そのものではなく、全人代常務委員会の承認となる、ちなみに常務委員会は偶数月開催である」との説明がありました。当方より「説明に感謝する。AMROの設立協定の方が先に合意されている訳だから(AIIBより)優先的に取り扱われるよう、少なくとも追い抜かれることはないようご配慮願いたい」と答えると、先方は笑いながら、「AMROなど44の設立協定については来月(2015年8月)に審議を予定している。」とのことでした。52 ファイナンス 2018 Apr.連 載 ■ 国際機関を作るはなし

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