ファイナンス 2018年4月号 Vol.54 No.1
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AMRO設立協定の審議を前にして、無用の猜疑心を引き起こすのは得策とは思えず、それ以上の取組みは控えざるを得ませんでした*6。自分は2016年国際機関移行の数か月後に所長職を離任しました。次の常チャン所長はAMRO(国際機関)の知名度の向上のためには、この文書公表規則が鍵であることを理解し、2016年のうちに文書公表規則について各国からの承認を取り付けました。メディアとの関係構築も専属の者を採用しました。この文書公表規則に基づき、2017年4月以降、AMROから、(ア)年報、(イ)東アジア地域の経済見通し、(ウ)個別国のレポートなどが公表されるようになっています。担当エコノミストは公表すれば公表したで、当局からの確認も厳しくなり、メディアからの問い合わせも増えて忙しくなっているとの声も耳にしますが、その口調は弾んでいます。2012年秋に撒いた種がきちんと引き継がれ、2017年になって芽を出したのを見ることができたのは喜ばしく思っていますし、今後相手国に遠慮して率直な提言ができなくならないよう祈念しています。順調に各国議会などにおいてAMRO設立協定の批准の承認が進む (2015年前半)各国議会などの承認手続きについて2015年前半は順調でしたが、後半は波乱含みでした。日本の財務省にいた時も、自分の担当する法案が国会にかかるといろいろな不確実性に直面し、ジェットコースターに乗っているかのような日々を経験することがありました。10か国を超える議会の承認を待つのは、趣向を異にする10基のコースターに連続して乗ったような経験をしました。その乗り物酔いは3年経った今でもわずかに残っています。承認が一番早かったのは、国際機関加盟に関する一般的根拠法のある国(複数)でした。それらの国は、その根拠法に基づき行政府が承認し、他の国に先駆けて批准書をASEAN事務局に提出し、手続きを完了させました。事前または事後に必要な国内法の改正を議会に求める仕組みになっていました。日本も早めのグループでした*7。「開かれた国会」もしくは通信技術の進歩を実感したのは、委員会の審議を衆議院、参議院のホーム・ページから「生」で視聴できたことです。衆議院の外務委員会はシンガポールのオフィスで見ましたが、参*1) もう一つの大きな課題として、IMFをはじめとする他の国際機関との関係構築がありました。例えば組織間の人事交流や情報交換を促進するためのMOU(了解事項)の締結などです。AMRO(カンパニー)はマクロ経済の調査・分析のためだけに業務が限定された機関であり、その分野を超えて他の機関と連携を図ることは設立契約上根拠規定がありませんでしたし、他の国際機関側も(AMRO(カンパニー)のような)民間組織とMOUを結び出しては、他の民間組織からも関係構築を求められて切りがないと考えたのか消極的でした。 本文中のレポートの公表と同じく、設立協定の中にMOUを結ぶ根拠規定を書き込み、2017年にIMF、ADB、ESM(欧州安定メカニズム)とMOUを結んでいます。*2) 2010年にAMRO(カンパニー)の設立契約を検討した際には、海のものとも山のものとも分からない新設機関に自由に報告の公表を許すことは憚られたものと推測しています。 世界金融危機後の経済・金融情勢の緊張が持続する中では、AMROはまず当局に対して率直なレポートを提出することに専念すべしとの考えがあったとも聞きました。*3) AMROのレポートに関心を持たれた方は、AMROのHP(http://www.amro-asia.org/publications/)をご覧ください。文中にあるAMRO(カンパニー)時代に公表に至った経済レポート(“Understanding Banking Supervisory Priorities and Capacities in ASEAN+3 Economies”及び“Non-Financial corporate bond nancing in foreign currency:trends and risks in ASEAN +3 emerging economies)も掲載されています。*4) 東アジア当局主催の会議で講演などを求められた時は、「これから述べるのは個人的見解で、AMRO(カンパニー)の見解でもASEAN+3の見解でもありません」と冒頭に述べることで話をすることは黙認されていました。設立契約の厳格な解釈には反するかもしれませんが、あまり子定規なことを言うと講演自体が空疎なものになり、主催者の当局側が困るという事情がありました。*5) 簡単に言うと、AMRO(カンパニー)の場合全ての報告について13か国総ての承認が必要だったものを、AMRO(国際機関)は事前に13か国により承認された文書公表規則に従えば、AMROの判断で公表可能、としたものです。*6) 通常の国際機関設立の場合、設立協定をどう書くかと組織としての知名度を上げることは、準備過程のうちから重要な課題です。広報担当の専属のスタッフの採用も考えられます。 同じ時期に中国が提唱したAIIB(アジアインフラ投資銀行)は、通常の国際機関の設立の手順を踏みましたし、中国政府の支援による宣伝広報があり、知名度は飛躍的に向上していました。AIIBは関係国の報道ぶりを気にする必要がない(もしくはその点を利用してメディアの注目を集めることができる)のが大きな違いでした。*7) 2015年の通常国会において、3月10日に国会提出、4月16日に衆議院外務委員会に付託、4月23日に衆議院通過、参議院に回付され、5月15日には参議院も通過しました。行政府内の手続きを経て、6月26日には批准書を寄託者であるASEAN事務局に提出し、手続きが完了しました。写真:設立4年目2015年夏のAMROスタッフ写真提供AMRO ファイナンス 2018 Apr.51国際機関を作るはなしASEAN+3マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)創設見聞録連 載 ■ 国際機関を作るはなし

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