ファイナンス 2018年4月号 Vol.54 No.1
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2016;Houy, 2014, a)*14。同氏はビットコイン以外の仮想通貨のメカニズムについても理論的に分析している(Houy, 2014, b*15)。また、貨幣論からの既存研究として、Iwamura et al.(2014)は現行仮想通貨の問題点を指摘した上で、理想的な仮想通貨が満たすべき条件を挙げている。更に、Hendrickson et al.(2016)はマッチングモデル*16を用いて、どのような条件下で現行通貨と仮想通貨が併存するのかを理論的に示した上で、政府の関わりによってその条件がどのように変わるのかを分析している。ウ)実証研究について仮想通貨は交換レートや履歴などの膨大なデータをオンラインに公開しているので、それらのデータを使った実証研究も少なくない。例えば、Cheah & Fry(2015)、Cheung et al.(2015)やFry & Cheah(2016)は、仮想通貨の価格変動がいわゆるバブルなどに該当するかどうかを実証的に分析している。その際の分析手法として、例えば、金融商品の価格変動をモデル化するのによく使われる幾何ブラウン運動と呼ばれる確率過程に、確率的に価格が大きく変動するというジャンプ過程を入れ込んだ上で、実際の仮想通貨の価格データにその確率過程を当てはめるなどの金融工学的な手法が用いられている。また、Gandal et al.(2018)は2013年のビットコイン価格の高騰が2つのアカウントによる価格操作に起因する可能性があると、実証研究に基づいて主張している。更に、ビットコイン市場が効率性を満たすかどうかについて検討した実証研究も存在する(Urquhart, 2016;Nadarajah & Chu, 2017)。ビットコインと他仮想通貨の価格を比較することにより、ネットワーク外部性による勝者一人勝ちが発生しているかどうかを検証した実証研究も存在する(Gandal & Halaburda, 2016)。*14) なお、マイナーへの報酬(ビットコイン)は確率的に付与されるが、この確率過程をモデル化した理論論文としてMa et al. (2018)が挙げられる。*15) 当該研究では、ビットコインでは用いられていないが一部の仮想通貨で用いられているProof-of-Stakeというメカニズムについて理論的に分析している。ビットコインなどで利用されているProof-of-Workのメカニズム下では、マイナーは投入した計算量に比例して(期待値の意味で)報酬が付与される(Bonneau et al., 2015)が、当該メカニズムに付随する電力消費などに懸念を呈する論者もおり(Krugman, 2013)、代替的なメカニズムの1つとして、例えばProof-of-Stakeというメカニズムが提案されており、一部アルトコイン(ビットコイン以外の分散型仮想通貨の総称(岡田, 2015))では実際に当該メカニズムが利用されている。Proof-of-Stakeのメカニズム下では、当該仮想通貨との経済的利害関係の大きさ、例えば当該仮想通貨の保有量に比例して(期待値の意味で)報酬が付与される(Houy, 2014, b, Chu & Ho, 2018)。その意味で、当該報酬は当該仮想通貨保有に対する利払いになぞらえられることもある(Houy, 2014, b)。*16) 本論文ではKiyotaki & Wright (1993)やCorbae et al. (2003)による理論モデルを前提に、現行通貨と仮想通貨の2つが存在する経済をモデル化している。*17) 当論文は、ビットコイン価格の動きが単位根過程であることや、volatility clustering(価格のボラティリティがある程度持続的であるという現象。)やfat tail(リターンの分布を見ると、正規分布から予測されるよりも多くの外れ値が現れるという現象。)といった特徴を再現できたと主張している。経済物理学の観点からビットコインの取引データを分析し、ビットコインの取引ネットワークの性質がビットコイン黎明期とその後で定性的に異なると主張する実証研究も存在する(Kondor et al., 2014)。同様に、価格の時系列がランダム・ウォークからどのくらい乖離しているのかをハースト指数と呼ばれる指標を用いて分析することにより、ビットコインの価格の時系列の性質がビットコイン黎明期とその後で定性的に異なると主張する実証研究も存在する(Bariviera et al., 2017)。また、ビットコインの取引等をモデル化し、シミュレーションを行ったところ、現実のビットコインの動きの特徴*17をある程度再現できたと主張する研究も存在する(Cocco & Marchesi, 2016)。更に、経済学というよりは統計学的な研究であるが、Saito (2016)は複数の仮想通貨や現実通貨の時系列の間にどのような相関関係があるのかを分析している。Bouoiyour et al.(2016)は、ビットコインのチャートの動きを非循環成分と9つの循環成分に分解することにより、ビットコインの価格の動きの大宗は非循環成分に帰着されると主張している。Bouoiyour & Selmi(2017)は、どのような要因がビットコインの価格に影響を与えるのかをBayesian quantile regressionを用いて分析し、市場が好調の時、通常の時、不調の時の3パターンに分けて、どのような要因がビットコイン価格に影響を与えているのかを特定している。Ciaian et al.(2016)は、ビットコイン経済の大きさやビットコインの流通速度などが、ビットコイン価格形成の主要因であると主張している。Katsiampa(2017)はビットコインの時系列にGARCHモデルを当て嵌め、AR-CGARCHモデルが最も当てはまりが良いと報告している。最後に、Urquhart(2017)はビットコインの価格を○○ドル○○セントの形で米ドル表示したとき、キリの良い価格(セント部分が0であるような価格)が有意に頻繁に現れると報告している。48 ファイナンス 2018 Apr.連 載 ■ 日本経済を考える

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