ファイナンス 2018年4月号 Vol.54 No.1
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仮想通貨の辿ってきた歴史について、以下の通りかいつまんで説明する。ア)仮想通貨の定義仮想通貨は米国財務省 金融犯罪執行機関連絡室(FinCEN)における定義、欧州銀行監督局の定義など、様々な定義が知られているが、我が国では、FATF(金融活動作業部会)ガイダンスにおいて仮想通貨が定義付けられたことなども受けて、資金決済法(第2条第5項~第6項)において、次の性質を持つ財産的価値を仮想通貨と定義している。ア.不特定の者に対して、代金の支払い等に使用でき、かつ、法定通貨(日本円や米国ドル等)と相互に交換できるイ.電子的に記録され、移転できるウ.法定通貨又は法定通貨建ての資産(プリペイドカード等)ではない*7なお、有名な仮想通貨として、例えば、ビットコインがあ*8る。なお、SuicaやEdyに代表される*9前払式の「電子マネー」も仮想通貨と並列に議論されることはある*10が、当該電子マネーはア.~ウ.の要件に照らし合わせ、一般的に仮想通貨には該当しないと指摘されている*11。また、技術的には、多くの電子マネーは利用記録を発行主体等が管理するサーバで集中的に記録する(吉田, 2016)ことにより二重使用を防止している一方で、ビットコインはP2Pネットワークによるブロックチェーンの維持とProof-of-Workシステム(後述)によって二重使用を防止しており、取引記録の集中管理が行われていないことなどが異なる。イ)仮想通貨の歴史仮想通貨自体は1999年にその原型が見られたとの指摘もある(Kristine, 2011)が、サトシ・ナカモト*7) ア.~ウ.は2017年4月金融庁パンフレットから引用。また、堀(2017)も参照。*8) 「有名な仮想通貨として、例えば、ビットコインがあ(る)」の部分は、2017年4月金融庁パンフレットから引用。*9) http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/report/report_01/04/4_1_1.pdfにおいて「電子マネーの利用経験者が利用した電子マネー(複数回答)」のうち上位2つを引用した。山本(2016)でもICカード型電子マネーとしてSuica及びEdyが例示されている。*10) 例:金子(2018)*11) 池田政府参考人は2016年4月27日に衆議院財務金融委員会で「仮想通貨の定義に特定の取引が該当するかどうかは、個別の商品、サービスごとに具体的に判断されるべきものでありますが、一般論で申し上げれば、ただいまお尋ねのありましたポイントですとか電子マネーですとかゲーム内で利用可能な通貨につきまして、例えば、それらを使用可能な店舗が発行者との契約や利用者への表示等で示されている、そして、そうしたものの交換を行う不特定の者が存在しないという通常の形態のものであるということでありますと、基本的には、仮想通貨には該当しないものと考えられるかと考えております。」と、一般的に電子マネーは仮想通貨に該当しない旨、答弁している。また、日経電子版2016/11/1「身近になる仮想通貨 利用者保護のルール整備 普及前夜の仮想通貨(上)」https://style.nikkei.com/article/DGXMZO08766350V21C16A0PPE001 でも国内の既存の電子マネーは一般的に仮想通貨に該当しないと見られるとの指摘。*12) https://coinmarketcap.com/に基づく(2018/3/17)。*13) 「報酬を付与」という表現は小野(2017)に倣った。がビットコインに関する論文を発表し(Nakamoto, 2008)、それを受けてビットコインの運用が開始されたとされる2009年を仮想通貨の黎明とする意見もある。いずれにせよ、黎明から10年足らずではあるが、足下では1,500種類以上の仮想通貨が存在するとの報告*12もあり、色々な場面で注目を浴びる機会が増えているのは事実である。2.仮想通貨の既存研究紹介仮想通貨への関心が高まるのと軌を一にして、経済学における仮想通貨の研究も2015年前後から見られるようになってきているが、それらの研究について、幾つかのカテゴリーに分けて紹介する。ア)概説についてBohme et al.(2015)は、仮想通貨の概説を経済学者向けに纏めている。これ自体は研究論文ではないものの、2010年代前半までの仮想通貨に関する経済学関係の既存研究の包括的な概説となっている。イ)理論研究について代表的な仮想通貨であるビットコインは、二重支払い防止などのセキュリティ機能を、マイナーと呼ばれる者が提供するコンピュータの計算能力(通称、マイニング行為)に依存しており、その代わり、マイニング行為を行った者(コンピュータの計算能力を提供した者)に対する報酬として一定の法則に従って新規に生み出されたビットコインを付与*13することにより、マイナーに対してマイニング行為を行うインセンティブを与えている(Proof-of-Workシステム)。このようなメカニズムをゲーム理論等を用いて分析している経済学者としてNicolas Houyが挙げられる(Houy, ファイナンス 2018 Apr.47シリーズ 日本経済を考える 76連 載 ■ 日本経済を考える

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