ファイナンス 2018年4月号 Vol.54 No.1
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過去の「シリーズ日本経済を考える」については、財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。http://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html仮想通貨に関する既存研究の整理*1財務総合政策研究所 客員研究員石田 良シリーズ日本経済を考える76昨年来、TVや新聞を始めとするメディア上で仮想通貨*2が取り上げられることが多かったこともあり、仮想通貨の名前は、既に一部の技術者だけでなく、多くの人に知られるようになってきている。仮想通貨の市場規模は既に3,000億ドルを超えているとの指摘もあり*3、経済学者の関心も高まりつつある(例:野口, 2014)。また、2017年12月に米商品先物取引委員会(CFTC)が、米先物取引所運営大手のCMEグループと、シカゴ・オプション取引所(CBOE)を運営するCBOEグローバルマーケッツに、仮想通貨ビットコインの先物上場を認める方針を公表*4し、昨年末からビットコイン先物の取引が行われるようになっており*5、更に、本年4月からはロンドンで現物決済可能なビットコイン先物取引が行われるようになるとの報道*6もあることから、市場関係者の関心も高まりつつある。加えて、2018年3月19-20日に開催された20か国財務大臣・中央銀行総裁会においても仮想通貨が議論の俎上に載り、「暗号資産の基礎となる技術を含む技術革新が、金融システムの効率性と包摂性及びより広く経済を改善する可能性を有していることを認識する」とされつつも、様々な問題が提起されていることなども受けて「暗号資産は、ソ*1) 本稿は専ら研究目的で書かれたものである。本稿の意見に係る部分は著者の個人的見解であり、著者の所属する組織の見解を表すものではない。ありうべき誤りは全て筆者に帰する。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではない。 本稿につき、コメントをくださった多くの方々に感謝申し上げる。*2) 貨幣論に関する津曲(2003)の論文等を背景に、「そもそも仮想通貨を通貨,若しくは貨幣と呼ぶべきか否かについては,様々な論争がある」と疑問を提起する向きもある(岡田, 2015)が、本稿では、当該論点には踏み込まず、資金決済法の表記に基づいて「仮想通貨」の表記で統一することとする。*3) https://coinmarketcap.com/に基づく(2018/3/17)。*4) ロイター2017/12/2「ビットコイン先物、CMEとCBOEで取引可能に」https://jp.reuters.com/article/markets-bitcoin-us-approve-idJPKBN1DV580*5) ブルームバーグ2017/12/18「ビットコイン先物、CMEでは好発進-ウォール街への浸透拡大へ」https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-12-17/P14HX56JTSE901*6) ロイター2018/3/15「英仮想通貨交換所、現物決済方式のビットコイン先物を4月開始」https://jp.reuters.com/article/uk-bitcoin-exchange-idJPKCN1GR08Nブリン通貨の主要な特性を欠いている。暗号資産は、ある時点で金融安定に影響を及ぼす可能性がある」と声明において指摘されており、国際社会の関心も高まりつつある。このように、各方面で仮想通貨に関する関心が高まりつつあり、仮想通貨に関する基礎的・理論的な理解を深める必要性も生じつつある中、仮想通貨の技術的な側面に関する学術的な成果はよく知られているものの、依然として仮想通貨に関する社会科学的な学術成果、殊に経済学における既存研究をまとめた文献は少ない。そこで、本稿では仮想通貨に関する既存研究を紹介することにより、今後の社会科学、殊に経済学における仮想通貨関連の研究の一助となることを期したいと考えている。なお、情報工学や決済システムの観点から仮想通貨を研究した文献も多数あるが、それらについては別の機会に紹介することとし、本稿では社会科学、殊に経済学における研究に焦点を絞ることとしたい。1.仮想通貨の概要仮想通貨の詳しい説明については、別の文献に譲りたいと考えているが、そもそもの仮想通貨の定義や、46 ファイナンス 2018 Apr.連 載 ■ 日本経済を考える

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