ファイナンス 2018年4月号 Vol.54 No.1
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巻頭言次の時代、2050年の 「ありたき姿」に思いを馳せる株式会社みずほフィナンシャルグループ 取締役会長佐藤 康博今年は色々な節目にあたる。ちょうど150年前、日本は明治という新時代を迎え、新たな国づくりへの果敢な挑戦が始まった。その激動の時代を活写した司馬遼太郎の『坂の上の雲』の連載開始が50年前の1968年である。そして平成の世となり30年目、この間、日本はバブルの絶頂から長いデフレの時代へと突入し、10年前(2008年)のリーマンショックが追い討ちをかけた。グローバルに見ると、東西冷戦体制の終焉を経て隆盛を極めたアングロサクソン型の金融資本主義に疑問符がつき、世界経済の中心は中国をはじめとする新興国へとシフトした。欧米で噴出する格差問題、新常態への移行を目指す中国経済、IoTに代表されるテクノロジーの著しい進歩に対する期待と不安、地球規模の気候変動に対する意識の高まり。日本を取り巻く環境は大きく変化している。間もなく平成が終わり、新たな時代を迎える。次の30年、日本はこれまで以上に大きな構造変化に直面するだろう。まず本格的な人口減少社会への突入、超高齢化と共に「人生100年時代」の到来である。もう一つはAIやロボティクスなどの新たなテクノロジーの更なる進化と革新的な製品・サービスの登場、あらゆる産業で起こるゲームチェンジである。働き方や求められるスキルも大きく変化するだろう。これらは、既に制度疲労の限界に近い日本の様々な社会システムを再構築すると共に、テクノロジーをより良く使いこなす、社会と調和させていくための枠組み・制度を新たに構築するという抜本的な改革が必要になることを意味する。構造的な変化に対して対症療法しか施されなければ、例えば持つ者と持たざる者といった格差の拡大、貧困の再生産という負のスパイラルを招き、テクノロジーの進歩に取り残される日本企業は競争力を喪失しかねない。「あってはならない未来」である。抜本的な改革は、ともすれば痛みを伴うため、その実行は容易ではない。求められるのは、課題を乗り越えた先にある目指すべき未来、道標となる「将来ビジョン」を見据えることである。大胆に未来を展望し、目指すべき「将来ビジョン」を描き、その未来を起点として変革に果敢にチャレンジしていく「バックキャスティング思考」が必要である。30年後の日本、目指すべき2050年の「ありたき姿」を描くとすれば、それは「誰もが安心して安全に暮らせる社会」ではないだろうか。機会の平等が実現し、個人それぞれが生きがい・やりがいを感じられ、そして豊かで持続可能な経済・社会システムが構築されている未来である。この実現には、新たなテクノロジーの普及に対応していくための雇用・教育制度、健康寿命を延ばして豊かな「人生100年」を送るための医療・社会保障の仕組み、テクノロジーの進歩や人口動態の変化に適応していく都市・街づくり、温室効果ガス削減のための再生可能エネルギーの普及など、幅広い取り組みが不可欠であり、官民がそれぞれ知恵を絞らなければならない。様々な課題が存在することは企業にとってはビジネス機会であり、いかにソリューションを創出していくのかが問われる。そして、我々金融機関としては、コンサルティング力を磨き、課題解決や価値創造へのベストパートナーとして社会貢献を果たさねばならない、重要な役割期待であるとの想いを強くしている。将来不安が叫ばれ、平成から次の時代を迎えようとする今こそ、皆が共有できる新たな「坂の上の雲」が求められる。日本には、山積する課題を乗り越える潜在力が十分にあると確信している。ファイナンス 2018 Apr.1財務省広報誌「ファイナンス」はこちらからご覧いただけます。

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