ファイナンス 2018年4月号 Vol.54 No.1
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コラム 海外経済の潮流109大臣官房総合政策課 海外経済調査係 保倉 拓人ISM非製造業景況感指数ISM非製造業景況感指数はサプライマネジメント協会(Institute for Supply Management:「ISM」)が公表する代表的な経済指標のひとつであり、米国経済に関連する指標の中でも注目度が高いもののひとつである。ISM非製造業景況感指数は、非製造業の購買・供給担当者に対するアンケート調査を基に作成される。1998年から公表が開始された比較的新しい統計であり、毎月第3営業日(米国東部時間午前10時)に公表される。アンケートを実施する項目は、10項目(事業活動、新規受注、雇用、入荷遅滞*1、在庫*2、在庫景況感*3、支払価格、受注残、新規輸出受注、輸入)におよび、それぞれ、前月との比較で「上昇/改善」、「変化なし」、「低下/悪化」から回答する。そして、各項目について、「上昇/改善」と回答した割合に「変化なし」と回答した割合の二分の一を足し合わせた数値が個別指数(単位は「%」)として公表される。ただし10項目の内4項目(企業活動、新規受注、雇用、支払価格)の指数は、上述の過程で算出された数値に季節調整が施された数値が公表される*4。そして個別指数10項目の内4項目(企業活動、新規受注、雇用、入荷遅滞)を平均し「総合指数」を算出する(単位は「%」)。評価としては、総合指数が50%を超えると、非製造業の経済活動が概ね拡大していることを表しており、指数が50%を下回れば経済活動が概ね縮小していることを表している*5。ところで、現状では、ISM非製造業景況感指数に対するマーケットの関心は製造業の景況感指数であるISM製造業景況感指数ほどは高くないようにも思われる*6。しかし、非製造業が米国のGDPや、雇用者数に占める割合が大半を占めていること*7を踏まえると、非製造業の景況感を示すISM非製造業景況感指数の重要性について、「米国経済の現状を把握する上で同指数は、最も注目すべき経済指標のひとつとなり得る」という意見もある。ISM非製造業景況感指数はリーマンショック期の2008年11月(総合指数:37.8%)を底として回復を続け、足元(本稿執筆時点2018年2月分)は59.5%と高い水準にある*8。【図1】今後の米国経済の動向を占う上でも、引き続きISM非製造業指数の動向に注視していきたい。(注)文中、意見に係る部分は全て筆者の私見である*1) 入荷遅滞とは、仕入れの入荷にかかる時間が、前月と比較して増加したかどうかを表す項目であり、指数が50を超えていれば、仕入れに要する時間が増えた企業が多いことを表す。*2) 在庫とは、前月と比較して在庫が増加したかを表す項目であり、指数が50を超えていれば、今後の売上増加を見込んで在庫を積み増した企業が多いことを表す。*3) 在庫景況感とは、前月との相対的な比較ではなく、絶対的な在庫の水準を表す項目である。指数が50を超えていれば、売上増加を見込んで在庫の水準を非常に高くした企業が多いことを表す。*4) 毎年1月に季節調整のファクターが更新される。これに伴い毎年1月に総合指数と4つの個別指数が過去4年間分遡及改定される。*5) なお、指標の公表元のISMは、過去のISM非製造業景況感指数とGDP成長率との相関関係に基づいて、総合指数が49%を超えていれば、米国経済全体が概ね拡大している状態であることを説明している。*6) ISM非製造業景況感指数は、ISM製造業景況感指数と比較して公表日が遅いことや歴史が浅いことから、指標の有用性や信頼性で劣るとの指摘がある。*7) 非製造業の名目GDPに占める割合は88.3%、非製造業の非農業雇用者数全体に占める割合は91.4%(共に2016年)。*8) ISMは2018年2月の結果を、年率+3.9%の実質GDP成長率に相当するとしている。44 ファイナンス 2018 Apr.連 載 ■ 海外経済の潮流

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