ファイナンス 2018年4月号 Vol.54 No.1
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2. 教育・人材・研究・創業の4つの事業軸(1)設立の原点は教育「日本で起業家が少ない」ことに対して最初にやらなければならないこと、それは教育です。表面的なことをあれこれ変えても、教育を変えない限り何も起きないのです。教育は一番時間がかかるのです。私が一番初めに取り組んだのが子供の教育です。10年かかったとしても、必要なことを先にやろう、ということで、リバネスは「出前の実験教室」から事業を始めた会社です。小中高校の子供たちに最先端の科学を出前することで、当時の課題だった「理科離れ」を解決し、その中に起業家の教育を入れ込めば、科学技術を用いたベンチャー企業が生まれてくる。これからは理系の人がベンチャー企業を興すことが当たり前になってきます。テクノロジーやサイエンスをしっかりと理解した国民を増やす。それが世界を変えていき、ビジネスにしっかりとリンクしていくことが重要です。文系と理系に分けた教育を続けていくといずれ破たんします。私自身は数学は得意ではありませんが、テクノロジーやサイエンスは大好きです。英語や国語、地理も大好きです。得意なものを中心に広くいろいろやりました。その経験を生かして起業にも取り組んでまいりました。(株)ユーグレナを立ち上げたのが2005年です。このほか、遺伝子検査ビジネスを行う(株)ジーンクエスト。ここは最近ユーグレナとM&Aを通じて一緒になりました。また孤独を解消するロボットを作る(株)オリィ研究所、台風発電に取り組む(株)チャレナジー、腸内細菌ベンチャーの(株)メタジェンなど多数のテック系ベンチャーに参画しております。自らの研究を研究で終わらせずに社会実装させて、それを事業として世の中に届けるという経験をしてきました。こういったバックグラウンドを持った研究者、プロデューサーというのは珍しいと思います。若い研究者たちには「研究も大事だが、世界がどう動いているのかわからない限り、ただお金を費やすだけの研究になってしまう。どういう世界を作るためにどんな研究が必要なのかをよく考えよ」と全国の様々な大学で説いております。リバネスで新しい研究をして、それを社会実装させるために、社長を連れてきて投資して研究をさらに大きくする。そんなおかしな研究所を作りたい。大学なのか、国なのか、企業なのかわからない、そんなあいまいな場所としてリバネスを創りました。(2) 課題解決を軸に広がった事業とプラットフォーム「ビジネスの素養がなかったのに、どうやって会社を創ったのか」とよく聞かれます。お金がほしいとか、社長になりたいとか全く思わなかったですね。研究さえできればよかったので、研究者の自分にできるビジネス、すなわち事業は何か、と考えました。事業は商売とは違います。商売というのは、例えば水を50円で仕入れて100円で売ると50円の利益が出る。右から左に流すだけです。事業は「新しいことを創る」ことです。何もないところから始まるので、「こうやったらこういう結果になるのではないか」という仮説と検証の仕組みが必要です。研究と同じです。商売には仮説・検証がありません。お金を入れてぐるぐる回していくだけです。仮説・検証には課題(Question)が必要となりますが、リバネスの立ち上げ時には「理科離れ」という大きな課題がありました。この課題に対する対応は国がやるべきか、学校か、大学か、いろいろな議論が出ていました。そこで「よし、この課題を解決しよう」と私たちは考えたのです。理科が社会の中で活かされていないので「理科離れ」が生じる。この課題を我々研究者が一緒になってどうやって解決していくか、まず我々の強みを書き出しました。「研究が大好きで、最先端科学の魅力を知っている」「実験して試行錯誤しているのは教授ではなく我々大学院生である」、ここまで我々の強みをブレイクダウンして「よし始めよう」となりました。「研究が好きだ」と「実験ができる」を足し合わせて、小中高校への出前授業を始めたのです。私たちがワクワクしているのが伝わると、子供たちもワクワクしてくるのです。実験を通じてすごく具体的な内容になります。「君たちもやってみてよ。できるから」とiPS細胞なども小学生に教えています。こうした研究を大学で囲っているのではなく、小中高生に見せるのです。す ファイナンス 2018 Apr.35連 載 ■ セミナー

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