ファイナンス 2018年4月号 Vol.54 No.1
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わが愛すべき80年代映画論(第九回)文章:かつおブルーレイ ¥2,381+税/DVD ¥1,429+税ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント監督:ジョージ・ミラー主演:メル・ギブソン『マッドマックス2』(原題:Mad Max2:The Road Warrior)1981年「世紀末」と聞いて、どんな情景が思い浮かぶだろうか。サイバーダイン社のマシーン兵器に支配されジョン・コナーと犬とともに洞穴に隠れる世界*1? マシーンならまだしも、お猿さんに支配され砂浜に埋められた自由の女神に腰を抜かす世界*2? あるいは至る所にゾンビが跋扈し、大きな濠でも掘ればいいのにわざわざ弱そうなバリケードの町を探しては籠り、案の定破られて、また町を探す、ということを繰り返す世界*3? そうしたPost-Apocalypticな世界を描く作品は数あれど、やはり80年代の人間であれば、「モヒカン」、「アメフトの肩プロテクター」、「バイク」、そして「ヒャッハー!」である。これ以外はない、これさえあれば十分。まさに「世紀末」の必要十分条件なのである。その元になったのがまさに本作。『マッドマックス』(1979年オーストラリア)の続編という位置付けよりも、その斬新すぎる世界観と悪者たちのファッションによって、のちの多くの世紀末作品に多大な影響を与えた伝説的な映画である。ストーリーは、大国間の戦争によって荒廃した世界から始まる。貴重なガソリンを巡って争いが絶えない世界。小さな石油精製所をなんとか守り抜いて生きている善良な人々のところに、ヒューマンガス率いる暴走族が襲い掛かる。ひょんなことから精製所の人々を助けることになった流れ者マックス(メル・ギブソン)*4は、精製所のリーダー、パッパガーロが率いる脱出作戦に協力することになる。それは、マックスが囮となり砂の入ったトレーラーを運転し、暴走族を引き付ける間に、他のメンバーは大量の石油をドラム缶に小分けにして精製所を脱出し「太陽の楽園」を目指す、というものである。お読みいただければ分かるように、要するに最後のマックスのトレーラーと暴走族が繰り広げる超絶過激な怒涛のカーチェイス以外は、割とどうでもいいストーリーなのである。*1) 『ターミネーター』(1984年アメリカ)。言わずと知れたシュワルツェネッガーの出世作である。*2) 『猿の惑星』(1968年アメリカ)。自由の女神像が描かれたDVDの表紙により豪快なネタバレをしていることで有名。*3) 『ウォーキング・デッド』(2010年~アメリカ)*4) DVD表紙画像参照本作を不朽の名作たらしめているのは、そのカーチェイスもさることながら、やはり暴走族の強烈な個性であることは論を俟たない。映画の冒頭から登場するのは、赤いモヒカンにプロテクターでバイクを乗り回すウェズ・ジョーンズ(ヴァーノン・ウェルズ)。しかしこの個性をして、ボスではないのである。その親玉こそ、「ロックンローラーのアヤトラ(伝道師)」という、迫力以外に特に意味が分からない紹介をされて満を持して登場するザ・ヒューマンガス(ケル・ニルソン)である。重量挙げの選手であるニルソンの筋骨隆々な肉体に、パンツ一枚、バッチバチのボンデージファッション、そしてまさかの『13日の金曜日』かぶりのホッケーマスク。いや、仮に「パンチDEデート」にホッケーマスクさん特集があったとすれば、おそらく女性陣全員が「やさしそうだから」という理由でジェイソンを選ぶであろう、というくらいのド迫力である。こうした面々が、まるで一歩間違えば正月のパサデナのローズパレードかと見まがうばかりの独創的なお車で登場し、さらに、「あれ? この世界ガソリンが貴重なんじゃねーの?」という初期の設定を余裕でガン無視する爆裂エンジン音で小さな精製所を襲う。この圧倒的な迫力。小沢健二の渋谷系J-Popなどを聴いているような90年代の気の抜けた輩であれば、一瞬のうちに叩き潰されてしまうであろう。だいたい、精製所のリーダーからして、名前が「パッパガーロ」。勝つ気ゼロである。余談だが、現在、国の財政は危機的状況であるが、財政破たんが起こったらどういう世界になるのか。そうしたイメージがなかなか伝わらないことには、平時における財政健全化の手も緩んでしまうというものである。そうした時に、「モヒカン」、「プロテクター」、「バイク」、「ヒャッハー!」をもう一度思い出し、「国家を維持する」ということの大切さと、それを担っていることの矜持を取り戻して欲しいわけであり、その際にお勧めの作品が本作であることは、もはや言うまでもない。 ファイナンス 2018 Apr.31わが愛すべき80年代映画論連 載 ■ わが愛すべき80年代映画論

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