ファイナンス 2018年4月号 Vol.54 No.1
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評者渡部 晶北村 亘/青木 栄一/平野 淳一 著地方自治論 ―2つの自律性のはざまで有斐閣 2017年12月 定価1,900円(税抜)財務省の関係者にとっては、大きな関心事項だが、本書第8章「地方税財政と予算」の冒頭で、国際比較からして、『脆弱な地方自治』は「神話」だとし、「日本の地方自治の特徴は、活動量が大きく、しかも活動範囲が広いということ」だと喝破する。本書は、地方自治、地方行政を研究し、優れた実績を挙げてきた、北村亘氏(大阪大学大学院法学研究科教授)、青木栄一氏(東北大学大学院教育学研究科准教授)、平野淳一氏(甲南大学法学部准教授)の共著である。このうち、北村教授の労作、中公新書「政令指定都市―百万都市から都構想へ」(2013年)については、本誌2013年9月号の当欄で紹介した。副題は、「2つの自律性のはざまで」であり、「はしがき」で説明されているが、地方政府の「自律性」(autonomy)に着目し、地域社会に対する地方政府の自律性(緊張関係)(「自律性1」とされる)、中央政府に対する地方政府の自律性(「自律性2」とされる)に着目する。地方自治は、この「自律性1」と「自律性2」のはざまで展開されるという。構成は、はしがき、「第1部 地方政府の主人公」(Chapter1.首長、2.議会、3.地方公務員)、「第2部 自律性1」(4.住民による統制、5.条例制定、6.地方自治体の組織編制)、「第3部 自律性2」(7.地方自治体の権能と大都市制度、8.地方税財政と予算、9.中央政府と地方政府)、「第4部 2つの自律性の中での地方自治の展開」(10.学校教育、11.子育て行政、12.高齢者福祉)である。随所にColumnが置かれ、興味深いトピックについて深い学識をさらりと提供する。第10章以下の個別の分析も読ませる。いま地方自治法制での見直しが課題となっている地方議会に関する第2章では、「(首長と議会がそれぞれ別個に住民によって選ばれる)二元代表制の下では、首長の行政運営や政策決定に問題がないかとチエックすることで、いわゆる是々非々の立場で首長に対峙することにある」という基本認識を保持しつつ、実際は、地域や時代によって様々だと分析する。Column2「落選議員の憂鬱」は優秀な議員をリクルートすることの重要性を指摘し、公職選挙法第89条(公務員の立候補禁止)の見直しや議員年金の復活を示唆する。地方公務員に関する第3章では、「出向官僚」に関連して、「端的にいえば、賃下げや職員削減を行う場合、切る側も切られる側もご近所様ではやりにくいため、首長は『よそ者』である出向官僚に改革を委ねるわけである。海外や他の自治体で成果を上げている事務処理方法を導入するときにも、出向官僚の存在は重要である」という。また、地方公務員の昇進管理について、「総じていえそうなことは、地方自治体では、公務員に専門性がないわけではないが、だからといって最後の昇進の判断では、専門性はあまり重視されないということなのであろう」という指摘はたいへん興味深い。評者がみるところ、今の地方政府(特に基礎的自治体)における難しい問題の1つは、「児童虐待」への対応だ。深い専門性や幅広いネットワーク構築力が求められ、これまでの人事のやり方も含め、従来型の行政方式がうまくいかない分野の典型であり、改革が切実に求められているのではないか。中央地方関係に関する第9章では、地方交付税の存在が、地方自治体の再分配の縮小という構造的制約から解放してきたが、今後は、市町村は開発志向に傾斜し、中央政府がバランスをとらざるを得ないという。いずれにしても、本書は、これまでの政治学や行政学などにおける、日本の地方自治の豊富な研究の到達点を整理し、質を保持して、的確に分析叙述したものであり、地方自治に関心を持つ向きには、有益な1冊となることは間違いない。ぜひ一読をお勧めしたい。注) 原著の引用部分の内、環境依存文字については、財務省ウェブアクセシビリティ方針に基づき変更しています。30 ファイナンス 2018 Apr.ファイナンスライブラリーFINANCE LIBRARYファイナンスライブラリーライブラリー

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