ファイナンス 2018年4月号 Vol.54 No.1
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コーヒーは、当然あまりおいしく感じられなかった。余計な先入観なしに飲んでいれば、おいしく味わえたかもしれない。(2)カリマンタン、水上マーケットカリマンタンは、世界で3番目に面積が大きいボルネオ島のインドネシア領であり、オランウータンやテングザルの生息地として有名である。本庁のプロジェクト担当局長が南カリマンタン国税局長に異動したので、視察訪問することになった。説明によると、カリマンタンは泥炭地帯であり頻繁に大規模な森林火災が発生する。地面が燃えるので一度火事が発生すると何年も鎮火しないことがあり、煙害(ヘイズ)と呼ばれる大気汚染の原因となる。また、地盤が軟弱なので高層ビルが建てられない。観光スポットの水上マーケットに案内してもらった。船で川を下っていると、川岸から食料品や土産物を積んだボートが次々に近づいてきて行商を始める。彼らは川岸の伝統的な水上ハウスに住んでいるが、その生活風景は衝撃的だ。川の水で身体や髪を洗って歯を磨き、その横では炊事洗濯をし、更にその横ではトイレも済ませている。「彼らにどうやって税金を納めてもらうか」と局長は苦心しているようだが、途上国ではこのような小規模個人事業者の納税コンプライアンス対策が喫緊の課題である。JICAプロジェクトでは、まずは会計記帳の整備普及を目指すことにして、日本の税理士制度や青色申告制度の導入支援を行っている。局長は毎週末、カリマンタンから飛行機でジャカルタへ戻り、車で数時間かけてボゴールの自宅へ帰って家族と過ごしているとのこと。国税職員の大半は、ジャカルタなどの大都市があるジャワ島に自宅を構えているが、広大な国土のために地方勤務せざるを得ない場合が多い。その一方、生活や教育水準が都市と地方でかなりの格差があるので、単身赴任の割合が非常に高くなる。職員との懇親会では、「家族と暮らしたいから、次の異動でジャカルタへ戻れるよう幹部に伝えてくれ」との切実な依頼を何度も受けた。(3)スラヴェシ島、タナ・トラジャ広大なインドネシアでは、各地に伝統的な儀式や風習が残されている。スラヴェシ島にあるタナ・トラジャはおいしいコーヒーの産地と盛大な葬式で有名だが、そこで、とある墓地に案内された。奥には巨木があり、説明によると、亡くなった幼児を葬る墓だという。よく見ると、木の幹のあちこちに黒いシミができている。伝統的に幼児の遺体はこの木の幹に結ばれて弔われるので、黒いシミはそのときの跡とのこと。ということは、次第に動物や虫に食べられて悲惨な状態を晒し続けることになり、それを見ながら家族は参拝を続ける…などと想像もしたくないことが頭に浮かんできたが、とりあえず手を合わせてお祈りした。タナ・トラジャには他にも、有名な舟形屋根の高床式倉庫や、死者のミイラを安置する洞窟などがあり、独特の風習による見どころが多い。いかんせん最寄りの空港から陸路8時間というアクセスの悪さがネックになっているが、最近新しい空港が整備されたらしいので、将来はインドネシアの代表的な観光資源となるポテンシャルを秘めている。おわりにインドネシア駐在員は、辞令を受けた時はあまりハッピーではないが、実際に住んで働いてみると、最後は大ファンになって後ろ髪を引かれる思いで帰任する者が多いと聞く。筆者もその一人になりそうである。在任中、多くの素晴らしいインドネシアの友人と触れ合うことができ、荘厳なイスラム文化にも接することができたのは、得難い貴重な経験であった。まだまだ開発途上国ではあるが、人々の幸せそうな笑顔を見て、真の豊かさとは何か、と改めて考えさせられた。今後も、何らかの形でこの国の発展に関わっていきたいと、切に願う。プロフィール小杉 直史1989年国税専門官採用。東京国税局調査部、国税庁企画課・国際業務課・北京長期出張者、税務大学校国際支援室を経て、2014年11月より現職。 ファイナンス 2018 Apr.27海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連 載 ■ 海外ウォッチャー

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