ファイナンス 2018年4月号 Vol.54 No.1
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行機への搭乗、成田空港での入国及び税関手続き、電車を乗り継いで自宅の最寄り駅に着くまで、各ポイントに車いすと係員が常に待機していてスムーズに引き継ぎされていき、全く歩かずに帰宅することができた。こんな状態で帰国できるのだろうか、と心配したのは全くの杞憂だった。9.医療事情その2着任して二年が過ぎたころ、突然激しい腹痛に襲われた。検査した結果、急性虫垂炎(盲腸)と診断された。今度は、生まれて初めての外科手術と入院を、異国のインドネシアで経験することになってしまった。手術開始時間が決まった後、突然東京のJICA顧問医よりストップがかかった。「手術はやはり日本で受けた方が良いので一旦保留し、薬物による温存治療が可能か判断するので至急CT画像を送ってほしい」とのこと。インドネシア人医師は当然不満顔で、「触診からして急性盲腸であり、緊急に手術するしかない。当地では温存治療はやっていない。当病院のCTは順番待ちがひどく、いつ撮影できるか分からないので、エコー画像しか撮っていない」との回答。JICA顧問医は「CTも撮らずに触診だけで判断するのか?外科手術しか選択肢がないのか?」と驚きつつ、送られたエコー画像から緊急性があると判断し、手術にゴーサインを出してくれた。医療レベルが違い過ぎて医師同士の会話がうまくかみ合っていないようだったが、こんなやり取りで手術開始が2時間ほど遅れ、待たされた執刀医や麻酔医や看護士たちに多大な迷惑をかけた状態で、インドネシア人医師団の手術を受ける事になった。手術室に入る前に「奥さんとお別れのキスをしないのか」と言われる。外国らしいなと思いつつ「盲腸は簡単な手術だからお別れじゃないでしょ」と聞いたら、神妙な顔つきで「手術に100%の安全はない…」と言われ、急に恐ろしくなった。全身麻酔なのでその後の事は全く覚えておらず、気がついたら入院病棟のベッドの上に寝ていた。妻の話では手術は2時間もかかったらしいが、日本では通常30分程度で終わるとのこと。経過は順調で、翌日には歩けるようになり、食事もできるようになった。しかし病院食には虫が入っているし、とにかく不味いので、妻に自宅から料理を運んでもらった。電動ベッドなのに何故か電源に繋がっていなかったり、看護婦が全く英語が通じなかったり、点滴交換を忘れられて血液が管へ逆流したりと、多少のトラブルはあったが、順調に回復して3日後に退院できた。10.地方の魅力首都ジャカルタには全くと言ってよいほど見どころがないので、最後に、地方の観光スポットをいくつか紹介したい。(1)バリ、神々の棲む島バリは日本人にとってはリゾート・ビーチのイメージかもしれないが、開発が進んでしまって実際の海はそれほど美しくない。綺麗な青い海を堪能したい場合は、もっとマイナーな小さい島へ行く必要がある。バリでは、ビーチに面したホテルのプールで、雄大な海を臨みながら泳ぐのがおしゃれである。バリはヒンドゥー教徒が多いので、イスラムのジャカルタとは全く様子が異なっている。ヒンドゥー寺院や神々の像があちこちに設置され、独特のオリエンタルな雰囲気を醸し出している。内陸部には芸術村のウブドや美しい棚田があるなど、観光スポットが多い。バリで友人の家にお邪魔したのだが、家の敷地内に家族専用のヒンドゥー寺院が建てられていて驚いた。どこの家にもあるという。宗教が異なっても、この国の人は信仰が篤い。信仰心がある一方で、多くのインドネシア人が黒魔術を信じているというのは有名な話。実はバリのある場所で、偶然にも木の幹に釘で刺された藁人形を見つけてしまった。名前のような文字も書かれており、神秘の島の独特の雰囲気が恐怖感を更に高めてくれる。呪いの藁人形なんて漫画だけの世界と思っていた。世界一おいしい(とされている)ルワック・コーヒーのプランテーションへ行ってみた。おいしさの秘訣は、ジャコウネコの糞から取り出したコーヒー豆で淹れているからとのこと。展示されているジャコウネコの糞(豆がぎっしり詰まっている)を見ながら飲む26 ファイナンス 2018 Apr.連 載 ■ 海外ウォッチャー

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