ファイナンス 2018年4月号 Vol.54 No.1
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あるので、札束を持って電話しているように見えるのだろう。SIMフリーだから盗まれたら簡単に相手の所有物になってしまう。歩道橋は左右から挟まれたら逃げ場がないので、なるべく渡らないように、とのお達しがあった。少年がギターを弾きながら近づいてきて演奏料を要求したり、夜は怪しげな物売りがひしめいていて、通るときは緊張する。物売りの隣で、街灯の明かりの下で健気に勉強している女の子がいて、心を打たれた。両替も油断できない。家に帰って数え直したらお札の枚数が足りないことが何度かあった。(3)クレジットカードの不正コピー日本のカード会社から突然国際電話があり、「30分ほど前に○○という店で60万円程度の買い物をされましたか」と聞いてくる。してません、と答えると、不正コピーされた疑いがあるので、カードを無効にして再発行するとのこと。この国の慣習では食事代はテーブル決済なので、支払い時は従業員にカードを預けることになるが、その間にやられたのかもしれない。犯人も愚かで、いきなり60万円も浪費するから簡単にばれるのであって、少額ずつ使われていたら発覚は難しかっただろう。7.交通事情ジャカルタは普段から渋滞が激しいが、通勤の時間帯にスコールが重なると最悪である。自宅から勤務先まで歩いて20分くらいだが、渋滞時は車で2時間以上かかることがある。スコールは通常直ぐに止むが、降り続けると洪水になって交通が完全に麻痺する。そのため、各施設には洪水時の移動用ボートが常備されている。道路は基本的に一方通行で、通りの向かいにあるビルに行くのに、道路をずーっと先まで行ってUターンして戻ってこなければならない。道路を突っ切れば30秒で着く距離なのに車で30分もかかることがあるので、走る車の間をすり抜けながら6車線の幹線道路を渡る強者が現れる。渋滞が免罪符になるため、平気で何時間も待たされることがよくある。時間感覚がルーズになる原因の一つだろう。渋滞解消のため、幹線道路は3人以上乗った車しか通行できなくしたり、奇数日は奇数ナンバー、偶数日は偶数ナンバーの車しか通れないようにするなど、いろいろと対策を工夫しているが、あまり効果が上がっていない。バイクの多さも渋滞原因の一つで、小さい子供二人を両親で前後に挟んで載せる四人乗りなど、見ていて危なくて仕方がない。インドネシアでは信号が珍しいが、職場の近くに一箇所ある。ところが、信号を守る者はほとんどおらず、青信号で渡っても信号無視の車が猛スピードでクラクションを鳴らしながら突っ込んで来るので、却って危険である。最近、赤信号の上に「あと〇〇秒で青」という表示がされるようになった。すると、なんと全ての歩行者と車がきちんと信号待ちをするようになったのである。良いシステムを導入すればコンプライアンスは向上する、という模範的な例である。8.医療事情その1着任して三か月ほど経った頃、少し慣れてきて心に油断が生じる時期である。いつものように出勤で歩き始めたところ、突然左足が地中にめり込んだ。ジャカルタ市内は歩いて移動することを想定していないのか、歩道がきちんと整備されておらず、道路にはところどころに穴が開いていて危険極まりない。いつもは注意して歩くのだが心に隙があったのだろう。穴から足を抜いたが、激痛でとても歩けないので、その場でタクシーを拾ってすぐに病院に向かった。「これは骨が折れてますね」レントゲンを見て医者は言った。生まれて初めての骨折を異国のインドネシアで経験することになった。「すみません。明日から一時帰国する予定なのですが…」「あなた、それはラッキーですよ!日本で治療が受けられます。当地には良い整形外科医があまりいないのですよ」。確かに、当地で何年も前にケガをして治療を受けた駐在員が、いまだに完治していない、という話も聞く。翌日、日本のサービスレベルの高さを思い知ることになる。搭乗する日系航空会社に骨折した旨を伝えると、スカルノ・ハッタ国際空港のタクシー降車場に既に車いすが待機していた。その後、出国手続きから飛 ファイナンス 2018 Apr.25海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連 載 ■ 海外ウォッチャー

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