ファイナンス 2018年4月号 Vol.54 No.1
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4.ラマダン(断食月)イスラム教の最も重要な行事である。イスラム暦なので毎年実施時期が変わるが、2018年は5月中旬から6月中旬までで、ラマダン明けの最後の一週間はレバラン(断食明け大祭)休みとなり、日本のお盆と正月が一度にやってくるようなイメージである。店も多くが閉まってしまうので、日本人はバリ島あたりに観光に出かけるのだが、早くから飛行機やホテルを手配しておかないと、満席かすごいインフレ価格になってしまう。というわけで初めてのレバラン休みは旅行手配に失敗し、家族に文句を言われながらジャカルタ市内のつまらない遊園地で遊んだ。2年目のレバランは教訓を活かし、半年以上前からバリ旅行を手配しておいて、家族からの信頼を回復した。ラマダンの過ごし方には注意を要する。ある日、昼食帰りに何も考えずにスターバックスコーヒーを飲みながら庁舎内に入っていったところ、多くの刺すような殺気だった視線に気が付いた。「し、しまった!」と気づいたときはもう遅い。この時期、日中にムスリムの前で飲食するのはご法度なのである。彼らは夜明けから日の入りまで一切飲食できない。つばを飲み込んでもいけないそうである。だから彼らはこの時期は気が立っており、細心の注意を払う必要がある。思えば、レストランは外の人から見えないように囲いをしていた。余談だが、週末に家族でスカッシュを習っているのだが、激しいスポーツにも関わらず、ラマダンの時期になるとコーチは全く水を飲まない。「このままでは死んでしまうから、頼むからこの水を飲んでくれ!」とペットボトルを差し出すと、「そこまで言うなら」とごくごく飲み始めた。無理強いすれば意外と簡単に戒律を破れる、ということを学んだ。なお、インドネシアなどの熱帯地域ではテニスなどの屋外スポーツは暑すぎるので、バドミントンやスカッシュなどクーラーをガンガン効かせて行う室内競技に人気がある。更に余談だが、ムスリム女性は運動中もヒジャブを着用する必要があるのか、被ってスカッシュしている女性がいたが、すぐに外れそうでプレーに集中できていない。ムスリム女性の優秀なアスリートを育てるのはなかなか難しいだろう。5.犠牲祭先輩からの「見に行かない方がいいよ」という忠告も忘れ、家族全員で近所のモスクに見に行ってしまった。いきなり「ホーヒー、ホーヒー」と空気が漏れるような音が聞こえてきて、何かと思ったら、首を半分切られた生贄の牛の気管から漏れる音だった。流れ出る血が真っ赤な河のようになっている。いかにも苦しそうなので、ひと思いに殺してあげればいいのだが、おそらく作法があるのだろう。隣では別の牛の解体作業が進んでいて、肉の塊が次々に並べられている。それを見ながら順番待ちをしている牛たちは、パニック状態で鳴きわめいていた。外国人の私たちに気づいた関係者が、説明をしてくれた。犠牲祭は、命をいただくことへの感謝の儀式であり、貧しい人たちへ肉を施す慈善目的もあるとのこと。スーパーで買える牛肉パックもどこかで屠殺されているわけであり、子供たちにとっては食育を考える良い機会になったかもしれない。6.治安状況(1)爆弾テロ2016年1月、日本人会が入居しているビル付近で爆弾テロが発生。実行犯4名と一般市民5名が死亡した。週末によく家族でそこに行って本やDVDを借りており、テレビのニュースでは、見慣れた1階のスターバックスが爆発で破壊されている様子が映っていた。妻は日本人会のインドネシア語教室に通っていて、テロの翌日が授業の日であったので、一日ずれていたら巻き込まれていたかもしれない。情報も混乱し、同時多発テロであちこちで爆発が起こっているとか、一部のテロリストが逃げてショッピングモールに潜伏している、などのデマが流れて、恐怖に拍車をかけた。(2)強盗・スリ混雑した公共バス車内や歩道橋で多く発生する。現金だけではなく、i-phone狙いでタックルして奪う窃盗団がいるらしい。最新機種は15万円以上の価値が24 ファイナンス 2018 Apr.連 載 ■ 海外ウォッチャー

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