ファイナンス 2018年4月号 Vol.54 No.1
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(3)複数の株主から複数の後継者への承継改正前の制度では、1社につき1人の先代経営者から1人の後継者への贈与・相続のみが事業承継税制の対象でした。今回の特例においては、先代経営者を含む複数の株主からの贈与・相続や、最大3人*2までの後継者への贈与・相続についても事業承継税制の対象となりました。これにより、代替わりにあたって分散した株式を集中させるケースや、兄弟姉妹等複数の後継者に協力して事業に取り組ませたいケースなど、様々な承継パターンに対応することとしました。(4)経営環境の変化に対応した減免制度事業承継税制では、納税猶予の適用を受けた後継者が事業を継続している限り、納税猶予が継続しますが、後継者が自主廃業や株式の売却を行った場合は、納税猶予が打ち切られ、猶予されている贈与税・相続税を納付する必要があります。その際、改正前の制度では、経営環境の変化により株式価値が下落した場合でも、承継時の株価をもとに計算された贈与税・相続*2) それぞれの後継者が代表権を有し、議決権割合の10%以上を有し、議決権保有割合が同族内で上位3位まで(3人の場合)であることが必要。税を納税する必要があるため、こうした税負担のリスクが懸念材料となり、事業承継税制の利用をためらう要因の一つとして指摘されていました。今回の特例では、経営環境の変化を示す一定の要件を満たせば、株式の売却額や廃業時の株式評価額をもとに贈与税・相続税額を再計算し、当初の猶予税額との差額を免除する制度を導入しました。これにより、将来懸念が軽減され、制度の利用促進につながることが期待されます。なお、こうした特例を利用するためには、平成35年3月までに特例承継計画を都道府県に提出する必要があります(贈与・相続が平成35年3月までの間に行われる場合、特例承継計画を贈与・相続の後に提出することもできます)。また、特例承継計画には認定支援機関による所見を記載することが必要です。特例は時限措置であるため、事業承継税制の特例の利用を検討する中小企業経営者が、専門家のアドバイスを受けながら早期に事業承継の検討・準備に取り組むことが期待されます。図表4 事業承継税制の適用対象者の拡大父親(先代経営者)〈50%保有〉母親〈30%保有〉50%贈与30%贈与○○×子複数人からの承継○×複数人から後継者への承継も適用対象とする。(時間差がある場合でも、後継者への贈与・相続があり納税猶予が始まってから5年以内に行った贈与・相続についても適用対象)複数人への承継父親(先代経営者)〈80%保有〉50%贈与30%贈与○子A子B複数名(最大3名)への承継も適用対象とする。●最大3名の各人が、同族過半、同族内で3位以上、代表者であること。●特例期間中(施行後10年間)の措置。父親(先代経営者)〈80%保有〉贈与○子改正前の制度の原則 ファイナンス 2018 Apr.11生産性革命に資する税制改正について特集

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