ファイナンス 2018年4月号 Vol.54 No.1
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3. 平成30年度税制改正における事業承継税制の拡充事業承継が喫緊の課題となる中で、前記のような制度上の問題に対応すべく、平成30年度税制改正において、10年間の贈与・相続に適用される特例として、事業承継税制を抜本的に拡充することとしました。具体的な拡充内容は以下の通りです。(1)猶予対象株式の制限撤廃改正前の制度では、納税猶予の対象となる株式について「議決権株式総数の3分の2まで」という上限があり、株式の価値のうち納税が猶予される割合(納税猶予割合)が80%(相続により承継する場合)とされていたため、株式の100%を後継者に相続する場合は、その約53%(=2/3×80%)にあたる部分しか猶予対象になりませんでした。今回の特例においては、これをそれぞれ100%まで拡充し、贈与・相続により承継される株式の全体を猶予対象としました。これにより、贈与・相続時には贈与税・相続税の納税負担が発生しないことから、後継者の納税資金確保という不安は大幅に緩和されることとなります。(2)雇用確保要件の弾力化改正前の制度では、承継後5年間平均で承継前の雇用の8割を確保できない場合は、納税猶予が打ち切られ、相続税・贈与税の納付が必要となっていました。平成21年の制度創設当時とは異なり、中小企業にとって人手不足が問題になる中で、後継者が8割の雇用を確保できないリスクが認識され、雇用確保要件が事業承継税制の利用に二の足を踏む大きな要因となっていました。今回の特例においては、承継後5年間平均で雇用の8割を維持できなかった場合でも、直ちに納税猶予が打ち切られないことになりました。ただし、その場合には、要件を満たせなかった理由について記載した書類を、税理士・金融機関・商工会等の認定支援機関の所見を記載した上で、都道府県に提出する必要があります。また、その理由が経営悪化等である場合には、認定支援機関から指導・助言を受けた上で、当該書類にその内容を記載する必要があります。図表3 事業承継税制の特例について親子中小企業(非上場)の経営者後継者株式会社会社生前贈与・相続総株式の最大3分の2が対象入口の要件の抜本緩和承継後の負担の抜本軽減猶予割合80%承継後5年間平均8割の雇用維持が必要全株式が対象猶予割合100%雇用要件は弾力化5年後に平均8割を満たせず、かつ、経営悪化している場合などについて認定支援機関の指導助言●後継者指名や経営見通し等●金融機関その他の認定支援 機関の指導助言承継パターンの拡大5年以内の承継計画の届出10年以内の贈与・相続が対象経営環境変化に対応した減免制度事業を続けている限り納税猶予複数人→1人1人→最大3人(代表者)も事業承継税制の対象とする今後10年間の贈与・相続に対する特例として、代替わりを促進。その後の猶予期間も含めて特例が適用される会社を譲渡(M&A)・解散した場合には、税額を再計算⇒税負担に対する将来懸念を軽減税額贈与・相続時株式価値税額(再計算)5年後以降過去3年間のうち2年赤字など減免解散時の相続税評価額 又は実際の売却価格(下限あり)解散・譲渡時※併せて、一般社団法人等を利用した課税逃れを防止するため、同族が支配する法人の財産についても相続税の対象とする。※上記の税制措置に加え、後継者マッチングの支援等の予算措置、個人保証のあり方の見直しも含めた総合対策が必要。10 ファイナンス 2018 Apr.

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