ファイナンス 2018年4月号 Vol.54 No.1
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2.事業承継税制のこれまでの歩み中小企業の事業承継を税制面で後押しする仕組みとして、平成21年に、事業承継税制(非上場株式についての相続税・贈与税の納税猶予制度)が創設されました。先代経営者から後継者に株式を相続・贈与により承継する場合、原則として、その株式の価値に応じて相続税・贈与税が課税されることとなります。その際、納税のための資金が確保できず、やむなく廃業に至ってしまうというケースが考えられます。事業承継税制は、こうした問題に対応するため、非上場株式の相続・贈与に係る相続税・贈与税の一定部分を、一定の要件のもと、後継者が事業を続けている限り猶予するという制度です。後継者が株式を売却したり、事業を廃業したりした場合は、納税猶予が取り消され、猶予されていた相続税・贈与税の納付が必要となりますが、後継者がさらに次の代に相続・贈与により事業を引き継げば、それまで猶予されていた相続税・贈与税は免除となる仕組みです。こうした仕組みにより、経営を承継する際の納税負担を緩和し、円滑な事業承継を促すとともに、承継された事業の継続を確保することが狙いです。平成21年の創設以降、事業承継税制は累次の見直しが行われてきました。例えば、平成25年度改正に*1) 子や孫への贈与について、一定の要件を満たした場合、贈与時には累積2,500万円の非課税枠を超える部分に20%の税率で課税し、贈与者が死亡した場合に相続財産と贈与財産を合算して相続税額を計算する仕組み。暦年課税制度といずれか一方を選択する。おいては、(i)承継後5年間、毎年承継前の8割の雇用を維持するという要件を、5年間平均で8割を満たせばよいこととする、(ii)親族外(番頭さん)への承継も対象に加える、などの拡充を実施しました。また、平成29年度改正においては、贈与により承継する場合に、相続時精算課税制度*1との併用を可能とし、猶予が打ち切られた場合の税負担を抑えるなどの見直しを行いました。こうした中で、制度の利用件数は徐々に増加してきましたが、直近の利用実績は年間500件程度にとどまっており、必ずしも制度の利用が十分に進んでいるとは言えないのが現状です。この背景として、事業者や税理士等の専門家における制度の周知・理解が進んでいないといった指摘に加え、制度自体に以下のような問題があるため「使い勝手が悪い」との指摘もありました。●猶予対象となる株式に議決権株式総数の3分の2という上限があり、猶予割合が80%であるため、100%の株式を承継する場合、その約53%にあたる税額しか猶予されず、納税猶予制度を利用したとしても一定の納税資金の確保が必要となる。●人手不足で人材の確保が難しくなっている中で、雇用を5年間にわたり平均8割維持するという要件が厳しい。図表2 事業承継税制の改正の経緯創設時(平成21年度改正)平成25年度改正平成29年度改正承継後5年間、毎年8割の雇用を維持承継後5年間平均で8割の雇用を維持・従業員数の要件の計算上、端数を切り捨て⇒小規模事業者に対する配慮・災害等の場合に雇用要件等を緩和対象となる株式は総株式数の2/3まで贈与後、先代経営者は役員を退任する必要贈与後も先代経営者は役員にとどまれる後継者が親族外(番頭さん)の場合も適用可後継者が親族の場合のみ税額の猶予割合は80%贈与の場合、相続時精算課税の併用不可経営者が生前に事業承継(贈与)を行った後に、相続までの間に事業をやめてしまった場合には、通常の贈与税が発生。贈与の場合、相続時精算課税の併用可左記の場合、20%の税率による贈与税を納付し、相続時に追加分があれば、納付。 ファイナンス 2018 Apr.9生産性革命に資する税制改正について特集

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