ファイナンス 2018年2月号 Vol.53 No.11
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2017年6月に公布された2017年改正地方自治法では、新たに地方自治体のうち、都道府県と政令市に対して、内部統制の整備・運用が義務付けられた。その他の市町村には努力義務とされた。施行は、2020年4月である。本書は、その帯にあるとおり、この法改正に対応して、「地方自治体が持続可能なサービスを維持し続けるために行うべき内部統制の整備・運用のあり方を提示」している。本書の著者石川恵子氏は、現在、日本大学経済学部教授・経営学博士で、監査論を専攻する。2011年の単著「地方自治体の業績監査」(中央経済社)は、わが国地方自治体における3E監査(経済性・効率性・有効性)のあり方を提示し、日本公認会計士協会学術賞などを受賞している。また、社会貢献活動として、総務省・官民競争入札等監理委員会専門委員、さいたま市・PFI等審査委員会委員などを務める。構成は、「序章 地方自治体の内部統制の整備・運用」、「第1部 内部統制の将来ビジョン」(第1章 将来の統制活動の特性、第2章 内部統制の整備に向けたシナリオ、第3部 内部統制の運用に向けたシナリオ、第4章 「リスクの可視化」と「運用のあり方」のモデル)、「第2部 地方自治法が定める統制の現状」(第5章 財務会計の事務手続に対する統制活動、第6章~第8章 監査委員制度における監査の現状(1)~(3))、「第3部 財務事務リスクへの対応」(第9章 地方自治体の不正リスクの特性、第10章・第11章 財務事務リスクへの対応(1)・(2))、「第4部 新たなリスクへの対応」(第12章・第13章 新たなリスクへの対応(1)・(2))、「終章 内部統制の整備・運用の将来」である。内部統制という言葉は、民間セクターではかなり普及しているが、地方自治法ではこの言葉を採用していない。石川教授は、序章で、鳥羽至英教授の定義を紹介している。すなわち、「適切で効率的な経営・業務の管理と遂行ができるように、企業組織・事業組織のあらゆる階層に属する人間の行為に対して、事前に、行為を遂行する段階で、そして事後に働きかける制御機能」だという。これは、地方自治体の組織体にも敷衍して説明できるという。そして、地方自治法は、住民の福祉の増進と最小の費用で最大の効果をあげることがミッションとされていて、「地方自治体の内部統制とは、地方自治法を遵守して事務手続きを実施すること、そして当該事務手続に対して事前・事後の統制活動を働きかけることである」とする。また、本書の対象となる「リスク」は、事務手続きあるいは事務執行にあたり派生するリスクに限定して考察を行っている。石川教授は、少子高齢化社会では、地方自治体は、歳入の増加の見通しがないにもかかわらず、歳出が増加し続けるが、行政サービスは維持しなければならないとし、その課題解決のためにも内部統制の整備・運用が必要とする。現状の統制活動では、(1)事務手続き上のリスクが可視化されていないこと(原課の各職員が頭の中で整理しているだけで可視化されていない)や(2)新たなリスクへの対応が未整備であること(例:監査委員制度のような財務事務リスクへの対応のほかは、リスクの可視化がされてないこと)が示される。痛感するのは、「地方自治」の美名・タテマエに隠されて、様々な事務手順が標準化されていないこと、規模の違う自治体でも、市町村としてフルセットの制度運用を求められることだ。本書はまさにその問題を「可視化」している。一読をお勧めしたい。評者渡部 晶石川 恵子 著中央経済社 2017年11月 定価3,200円+税『地方自治体の内部統制~少子高齢化と新たなリスクへの対応』(注)原著の引用部分の内、環境依存文字については、財務省ウェブアクセシビリティ方針に基づき変更しています。ファイナンス 2018.251ファイナンスライブラリーFINANCE LIBRARYファイナンスライブラリーライブラリー

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