ファイナンス 2018年2月号 Vol.53 No.11
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連 載|海外ウォッチャー渡しは、相手国政府にとって技術的に特に難しい分野ですが、銀行など民間セクター出身のスタッフを抱えるADBなどの開発金融機関はそのギャップをユニークに埋めることができる可能性があると思います*9。7.おわりに-構造改革実行のための6つの教訓これまでADBの途上国での構造改革支援について見てきましたが、日本の経済政策に関心ある読者であれば、アベノミクスの「第三の矢」が頭にぱっと思い浮かんだ方もいらっしゃるかもしれません。日本においても金融市場を含む様々な分野で、ミクロの構造改革の重要性が強調されています。この点、その実行にあたって、バングラデシュやスリランカの経験からどのような教訓があるでしょうか。もちろん途上国特有の問題(専門性のある職員の不足など)もありますが、先進国にも妥当しうると私が感じた6つの教訓をここでは提起したいと思います。1つ目は「モメンタム」を維持することです。短期的な成果を作り、3年程度の間に重要な施策を矢継ぎ早に実行しないと、政府職員レベルで改革疲れがおきてしまいます。2つ目は「Coordination」です。省庁間の協力は自発的には決しておこらず、高いレベルでの強制力(例えば、政治のリーダーシップ)が必要です。また生産的な議論を確保するために協議に関わる省庁の範囲を意図的に狭める必要があります。3つ目は「スマートな意思決定ライン」です。新しい施策を導入するためには、その案件に関わる政府組織の全ての階層(マネジメント‐中間管理職‐一般職員)がそれぞれ「政策観」と「一定レベルの基礎知識」を共有する必要があります。4つ目は「修正主義」です。外部環境は常に変化するため事前の分析に時間をかけてもあまり意味がなく、実行の過程で定期的に改革の方向性・手法を見直して修正していく姿勢、また過去の失敗を叱責しないという安心感を改革を実行するチーム内に醸成することが重要です。5つ目は「外部の知見」を活用することです。国際機関などの第三者のアドバイスを利用することで、内部の合意形成を促進し、かつ政府職員レベルでスケジュール通りに改革を実行することへのプレッシャーがかかります。6つ目は「職員レベルでのインセンティブ」です。例えば、改革が成功することにより、昇給する・オフィスが綺麗になる・部下が増える・業務が効率化する、などへの期待を職員が持つことで、改革のペースが加速します。また、よりコストがかからない方法として例えば表彰制度の導入だけでも大きな効果があるでしょう。最後に、政策のベストプラクティスが世界中で共有されている現代において、国の競争力を左右するのは「改革の実行力」であり、そのためにエネルギーに溢れた力強いチーム、そしてそれを支える制度的支援を政府内に作れるか、がとても重要だということをあらためて強調したいと思います。バングラデシュ証券取引委員会幹部陣と筆者(右から2番目)プロフィール星野 拓哉アジア開発銀行(ADB)南アジア局 金融セクター専門官2007年財務省入省。関税局、南カリフォルニア大学留学(MBA)、財務官室などを経て2014年8月より現職。ADBでは資本市場改革のほかに中小企業金融、インフラファイナンスなどを担当。*9)中小企業育成について政策金融を利用したADBの取り組みの例としては、拙稿「スリランカ金融市場育成へのADBの挑戦」(ファイナンス2015年12月号)をご参照ください。50ファイナンス 2018.2FOREIGN WATCHER海外ウォッチャー

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