ファイナンス 2018年2月号 Vol.53 No.11
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6.ADBに何ができるか?上述のとおり、構造改革を進めるプログラムは、成果が目に見えやすいインフラプロジェクトとは異なる組成・実行の難しさがあり、プロジェクトオフィサーとしては失敗のリスクが高いという感覚があります。難しいPolicy Actionがあればあるほど、プログラムの実行は遅れ、事後評価では低い評価が与えられてしまう、という懸念がスタッフレベルでは生じます。しかし、アジアが発展する上で、資本投資効率を高める構造改革の必要性は、プログラムローンが主流化した1980年代後半以降から、形を変えながらも薄れるものではなく、公平・中立・専門性のある国際機関こそがこれからも主体的に関わるべき領域と思います。では、ADBは今後どのようにして構造改革に関わっていくのが効果的でしょうか? 個人的には、ADBを含む国際機関の構造改革への関わり方は、専門的知識を紹介しながら政策アドバイスをするといった従来型の「知的支援」という役割から「実行の支援」「民間部門の刺激」へと重点がシフトしていくべきではないか、と考えています。戦略策定から実行支援へもちろん知的支援は依然重要なケースもあります。例えば、資本市場改革であれば、デリバティブ市場の育成や証券取引所のITシステムといったように、高度な専門知識が要求される分野はあります。しかし、特に金融分野の法規制・監督の分野ではIMF、OECD、国際決済銀行(BIS)、証券監督者国際機構(IOSCO)などがベストプラクティスを文書化しており、その実施状況につき定期的にモニタリングするという枠組みが出来上がっています。また各国当局間での国際会議参加等を通じた相互学習も盛んであり、途上国政府は「次に何をすべきか」についてはよく理解していると思います。そのような中、途上国政府にとって、戦略策定支援のために敢えて国際機関を招聘することの真のメリットは、特定の政策を導入するに当たって国内の説得をしやすくなる、あるいは改革に本腰を入れたというシグナルを国民に向けて発することができる、といったことのように感じます。しかし、国際機関からの支援、特に包括的なプログラムを導入することの最大の効果は、「どうやって実現するか」について共に考える、そしてときに厳しく締め切りを設定するパートナーを得る、ということだと思います。いくらトップが方針を出しても実行に移せないという途上国政府の内部的な問題を解決するには外部の力が不可欠です。この点、ADBは地域機関として、相手国と地理的に近く時差がないことが「実行を支援する」上での最大のアドバンテージです。実際、相手国を1ヶ月に1度のペースで訪れることができますし、電話会議などを併せれば、きめ細かい調整をタイムリーに行うことが可能です。政府は常に大小様々な案件を処理しており、本当に大切な改革を先延ばしにする傾向があります。相手国政府にとって真に重要な課題に正面から向き合ってもらうためには、国際機関職員が定期的に現地に足を運ぶことで、相手国政府の職員レベルで改革の重要性を感じてもらい、日常業務の中での優先度を高めてもらうことが重要です。政策金融スキームを組成し民間セクターの参加を促進するさらに、開発金融機関にユニークなツールとして政策金融があります。プログラムで制度面を整えると同時に、民間セクターが利益を得る機会として新たなサービス・商品を積極的に利用するようなインセンティブを供与すべく、政策金融のメカニズムを入れることは有効です。例えば、ADBではインドのプロジェクト債市場を発展させるため、政策金融機関を通じてプロジェクト債の信用補完を行い格付けを上げることで、より機関投資家に保有してもらいやすくする、というスキームを導入しました。本件では、パイロット案件の組成支援をしながら必要となるプロジェクト債発行に関する契約の雛形を整備し、民間セクターの取引コストを下げることに成功しています。政府による法整備と民間セクターの利用の間の橋ファイナンス 2018.249海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連 載|海外ウォッチャー

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