ファイナンス 2018年2月号 Vol.53 No.11
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なります。その後、ADBのプログラムを実際にデザインしますが、ここではプログラムに含むべきPolicy Actionsの「範囲」と「順序」を相手国政府と合意します。「範囲(Scoping)」について、資本市場改革プログラムの場合、証券市場の需要と供給の両方を高めるための施策を組み込むのが定石です。需要サイドとしては、年金や保険会社といった機関投資家の規模と証券市場への参加、供給サイドとしては、企業の株式発行や証券化などを推進する施策があります。「順序(Sequencing)」について、例えばデリバティブ商品を導入するという目的を実現するためには、前提としていくつかの施策を事前に導入する必要があります。決済リスクを軽減するための十分に資本を積んだ中央清算システムの導入、市場参加者自体の貸倒れ軽減のための資本増強、さらに市場監督強化のために監督当局のガバナンス強化・職員の増加、などが事前に必要になります。さらに、証券取引所を株式会社化することで、市場発展に貢献するインセンティブを与え、デリバティブを含めた新サービス・商品の普及を促進することができます。このように様々な施策を順序良く導入し、複数のPolicy Actionsが有機的に結びついて市場を発展させる政策のエコシステムをつくれれば、質の高いプログラムのデザインといえるでしょう。相手国政府はプログラムを実行しない限りADBからの融資がされないため、各Policy Actionの「実現可能性」については特に気を配ります。一方で、ADBが支援しなくても相手国政府が実現できてしまうような簡単なPolicy ActionsであればADBがわざわざ関わる理由はありません。「難しいけれども努力すれば実現できる」ギリギリのラインを見極め、相手国と交渉し、ADBの理事会から承認を得るのが、ADBのプロジェクトオフィサーの腕の見せ所です。5.プログラムは成功するのか?このように手間隙をかけ慎重にデザインし、かつ相手国政府の合意を得たにも関わらず、プログラムが着実に実行され、かつそれが市場の発展につながるには、さらに様々なハードルを越える必要があります。(1)プログラム実行の困難実現可能性に影響を与える相手国政府側の主な要因としては、キャパシティ(Capacity)、省庁間連携(Coordination)、コミットメント(Commitment)があります。ADBではこれら「3Cs」に対して処方箋をあらかじめ用意します。まず、実施機関のCapacityを補完すべく、プログラムローンに合わせて技術協力(TA)を供与します。例えば、デリバティブなど専門性の高い分野においては、国外から専門家を招聘し、政府職員が法制度を整えるのを支援します。*7Coordinationについては、関係省庁間の協調を促すべく定期的な連絡会議を設け、内閣の小委員会への報告を求めるといった仕組みを作ります。Commitmentについては、ADB・政府間のハイレベル協議の際に、プログラムの着実な実行をADB幹部から相手国の閣僚級にプッシュしたりします。しかしながら、上記のような取り組みがあるにスリランカでのプログラム組成前のセミナー*7)スリランカの資本市場改革プログラムの場合、総額$2million(2.2億円)の技術協力TAがプログラムの実行支援のために組成されています。ファイナンス 2018.247海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連 載|海外ウォッチャー

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