ファイナンス 2018年2月号 Vol.53 No.11
50/60

連 載|海外ウォッチャーADBは資本市場改革の分野で、それぞれがプログラムを導入しました。*5スリランカの場合、資本市場の未発達が財政・対外収支悪化を直接引き起こしたとは言えず、短期の市場安定化措置がことさら必要なわけではありません。ADBのプログラムは、危機対応というよりも、市場を持続的に発展させることで海外投資家を呼び込み対外収支を安定させる、といったより長期の政策目標に焦点があてられています。バングラデシュの場合と同様、前半のフェーズではマスタープランと基本法(改正証券法や証券取引所株式会社化法)を制定して大きなフレームワークを整え、後半のフェーズでより専門的な個別の施策を導入します。また特殊事情として、国債市場については2016年にプライマリーディーラー制度をめぐる大きなスキャンダルがあったことから、より透明かつ公正な国債発行・流通制度を構築することも優先事項としてADBのプログラムに組み込まれました。一般論として、財政当局としては、財政支援を受けるべくプログラムを早期に完了させる必要がある一方で、個別の実施機関(証券取引委員会、中銀など)では慎重に政策を積み上げる必要があり、両者のバランスをいかに取るかが、組成・実行時の重要な論点となります。4.プログラムローンのデザインでは、プログラムのデザインの質を高めるために、ADBとしてどのような事前準備を行っているのでしょうか。まず、最初のステップとして、案件組成のための技術協力(TA)を利用して、専門家の力を借りながら個別の問題を分析します。*6次に市場発展のためのマスタープラン(5~10年程度の期間)を作成し、政府・民間関係者と対話を積み重ねながら、政府内の高いレベルでの承認(例えば閣議了解)を受けます。長期のマスタープランは相手国のオーナーシップを確保する上で極めて重要に(参考5)スリランカの対外収支(2014―)-2004006008001,0001,200-2,0004,0006,0008,00010,000Q3-17Q1-17Q3-16Q1-16Q3-15Q1-15Q3-14Q1-14証券投資流入外貨準備残高インフラ開発が進むコロンボ(参考6)スリランカ―主なpolicy actions資本市場改革プログラム(SRI-CMDP)1stTranche(実施中・17年2月完了予定)2ndTranche(実施中・19年8月完了予定)$125 million$125 million・資本市場改革計画の承認・改正証券法(SEC Act)の議会提出・証券取引所の株式会社化法(Demutualization Act)の議会提出・上場廃止ルールの厳格な適用・株式決済機関の設立・国債発行計画の開示・国債プライマリーディーラー・オークション制度改革・保険会社の資本規制の実施・証券取引所の株式会社化・証券会社の資本規制・中央決済システムの設立・デリバティブ、投資信託、証券化に係る法規制・税制整備・国債発行における財務省と中銀の協調・国債取引のITシステム導入・公的年金基金の改革(長期戦略、ITシステム)・保険係争処理フレームワークの策定、保険教育戦略の策定・国有企業の株式上場*6)スリランカ・バングラデシュの資本市場改革プログラムでは、案件準備のためのTAにはそれぞれ約$500,000(約5,500万円)程度のコストがかかりました。46ファイナンス 2018.2

元のページ  ../index.html#50

このブックを見る