ファイナンス 2018年2月号 Vol.53 No.11
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巻頭言こころの劇場唐突ですが、皆様が「人生で初めてご覧になった舞台作品」とは、何でしょうか。もちろんお答えは様々だと思いますが、きっと「小学校の時に、クラス全員で出掛けた劇団四季のファミリーミュージカルだ」という方は多いのではないかと思います。おそらくそれは、ニッセイ文化振興財団様が主催し、劇団四季が出演団体として参加していた児童招待公演「ニッセイ名作劇場」のことでしょう。今から半世紀前の1964年、東京・日比谷に開場したばかりの日生劇場でスタートし、2014年まで続けられた企業メセナの先駆けです。発案は、当時、日本生命の社長を務められ、優れた経済人のお一人であった弘世現氏でした。「戦後の荒廃の只中にいる子供たちの心に、夢を与えてほしい」―この言葉を聞いた浅利慶太先生(当時、日生劇場の役員)は、子供たちを退屈させないためにと、まだ珍しかった「ミュージカル」の手法を採る舞台の制作を提案。こうして当時としては画期的な企業主催による児童招待事業が始動しました。この取り組みは、半世紀で総計4,969回を上演。通算の観劇学校数と児童数は、のべ1,798回、777万人に及びました。なお現在、この精神は、一般財団法人舞台芸術センターと私ども劇団四季が主催する「こころの劇場」へと引き継がれ、その規模を拡充させています。「未来ある子供たちへ『生命の大切さ』、『人を思いやる心』、『信じ合う喜び』など、生きていく上での大事なことを語り掛けたい」―2008年の開始以来、この趣旨にご賛同いただく多くの企業や団体のご協力により、四季のファミリーミュージカルを全国で巡演。展開する地域は、北海道・利尻島から、沖縄県・石垣島/宮古島まで、まさに日本列島全体に至ります。離島の子供たちが本格的なプロの舞台に触れる機会は多くはありません。そこで、そうした街については特に重要視し、自ら荷物を背負って、舞台の感動をお届けしています。なお本年度では、『ガンバの大冒険』と『嵐の中の子供たち』の2作品を全国170都市で計437回を上演。総観劇児童数は54万人を数えました。日本の小学6年生は約100万人と言われていますから、実にその半分が劇場へ足を運んでくれた計算です。そのスケールをご想像いただけることでしょう。少し横道に逸れますが、「こころの劇場」として行うもう一つの活動もご紹介させていただきます。それは、日産労連NPOセンター「ゆうらいふ21」主催によるクリスマスチャリティー公演です。この事業は、「心身にハンディキャップをお持ちの方々に、いつまでも思い出に残る本物の舞台を見てもらいたい」という思いから、組合員の方々が毎月100円ずつ積み立てた福祉基金等で運営されているものです。1976年以来、毎年のクリスマスシーズンに上演。組合員の皆さんがボランティアとして、当日の舞台設営や来場者誘導などの運営に携わることも、大きな特徴となっています。その事業が、このほど通算1,000回の節目を迎えました。月100円の拠出金が、運営資金に充てられているとは、大変尊い活動です。私どもが展開する『ライオンキング』や『キャッツ』などロングラン公演の「通算1,000回」ももちろん偉大な記録ですが、毎年数十回、40数年をかけて積み上げられた1,000回は、ひとしおの価値があると思っています。半世紀前に蒔かれた一粒の種が今、まさに大きく豊かな稔りとなって、子供たちに笑顔と勇気を与え続けています。他方、この事業は、少子高齢化が叫ばれる日本において、新たなお客様を生み出す策になるかも知れません。実際に、舞台をみた子供たちが成長して大人になり、やがて有料の公演を観に来てくださるという流れも生まれています。子供たちの豊かな心を育むために、そして未来の観客を育むために、私たち四季ができること。その一つが、「こころの劇場」です。この事業を通して、一人でも多くの子供たちの心に感動の灯を灯すことができればと願ってやみません。劇団四季 代表取締役社長吉田 智誉樹ファイナンス 2018.21財務省広報誌「ファイナンス」はこちらからご覧いただけます。

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