ファイナンス 2018年2月号 Vol.53 No.11
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連 載|海外ウォッチャーて「知的支援(intellectual support)」を行い、質の高い改革が確実な実行がなされた場合には財政支援を行う、という今日のプログラムローンの枠組みが導入されました。その背景には、マクロ経済が安定せずまた政策による市場の歪みが大きい場合には、プロジェクトローンを通じた資本投資だけをやっていても貧困削減や経済成長への寄与が小さい、といった途上国開発に対する新たなアプローチが主流化したことがあります。ADBではプログラムローンの供与は総融資額の20%が上限とされていますが、2000年代においては毎年ほぼこの上限に近い額のプログラムローンが承認されています。セクターとしては公共管理・金融市場関連がプログラムローン総額の約70%を占めていますが、当該セクターのマンデートが、借入国の資金ギャップを埋めるために投資環境を整えるというプログラムローンの目的と整合性が高いためと思われます。以下、筆者の関わってきたバングラデシュ、スリランカの資本市場改革プログラムを題材に、プログラムローンの実務上の論点を見ていきます。3.資本市場改革プログラム近年アジアの開発政策の文脈では、「インフラ不足が成長の足かせとなっているところ、財源不足を補填するために民間の長期資金をインフラプロジェクトに活用すべき」といった議論が主流になっています。資本市場は機関投資家などの長期の成長資金を資本投資に効率的に仲介する機能があり、バングラデシュ、スリランカでは資本市場の発展が重要な開発アジェンダとされてきました。しかし、個別の施策の実行が着実に進んできたとは必ずしも言えません。例えばスリランカの場合、2006年に証券取引委員会が策定した資本市場改革プラン(Capital Market Master Plan 2006)の中で、コロンボ証券取引所の株式会社化が政策目標として組み込まれていたにも関わらず、その後10年間で実行にはいたりませんでした。このような状況の下、バングラデシュ、スリランカがADBのプログラムを導入し改革に取り組み始めるにはそれぞれ特殊な経緯がありました。そしてそれぞれの経緯がプログラムのデザインに影響を与えています。(1)バングラデシュ-株式市場暴落を契機にバングラデシュでは2010年末に株式市場が暴落したことをきっかけに、第2次資本市場改革プログラム(BAN-CMDP2)が政府との間で合意されました。*3本第2次プログラムでは、株式市場での投機を抑制すべく、銀行による株式投資規制、銀行監督と証券監督の連携強化といった短期の市場安定化措置をまず導入しました。その上で、長期の市場発展マスタープラン(Capital Market Development Master Plan 2012-2022)を策定し、各種の証券法制、開示制度、証券取引所の株式会社化といった市場を持続的に発展させるための大きなフレームワークを構築しました。また、証券市場への参加主体を拡大・多様化という観点から、機関投資家としての保険会社を育成することも重要であり、ADBのプログラムでは、保険市場改革のアクションプラン(National Insurance Policy)も同時に策定しています。2014年末に第2次プログラムが完了した後、改革の流れをさらに強化すべく第3次資本市場改革プログラム(BAN-CMDP3)が合意されました。ここでは、第2次プログラムの持続性を高める施策(例えば新たな開示制度の運用開始など)に加え、市場を高度化するための施策、例えば上場投資信託やデリバティブ市場育成、中央清算機(参考2)発展が遅れている南アジアの資本市場GDP/人 $ 2016株式 対GDP 2016国債 対GDP 2016社債 対GDP 2016バングラデシュ1,35918%9%<1%スリランカ3,83523%43%2%インド1,74169%34%14%インドネシア4,05046%15%3%フィリピン2,95179%28%6%タイ5,908106%55%20%マレーシア9,503121%52%43%GDPは名目値、出所:各国中銀、証券監督当局、世界銀行*3)第1次資本市場改革プログラムは1997-2000年に実施されました。44ファイナンス 2018.2

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