ファイナンス 2018年2月号 Vol.53 No.11
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FOREIGN WATCHER海外ウォッチャー1.はじめに筆者は、2014年より、アジア開発銀行(ADB)の金融セクター専門官として、バングラデシュ・スリランカの資本市場改革に関わっています。資本市場改革のための政策メニューは専門性が高く、またその実行にあたっては様々な利害関係者を巻き込み、地道に意思決定を積み重ねていく必要があります。ADBは地域に根ざす国際機関として、政治・外交的に中立な立場から、長年にわたりアジア途上国の資本市場の発展という困難な政策課題を支援してきました。その1つの強力なツールとして「プログラムローン」があります。本稿では、バングラデシュ・スリランカの資本市場改革を題材に、ADBのプログラムローンが資本市場改革をはじめとする途上国のミクロの構造改革を支援する上でどのように機能しているのか、ADBがその組成・実行にあたってどのような課題に直面しているのか、ADBがより効果的に借入国の構造改革を支援するにはどうすべきか、といったことを紹介したいと思います。*12.プログラムローンとは?一般的な開発融資は「プロジェクトローン」と呼ばれるもので、道路や発電所建設といった個別プロジェクトに際して、具体的な支出項目(例えば、調査費、設備費、工事費など)を特定して融資を行います。これに対し「プログラムローン」は、借入国政府と国際機関の間で「改革プログラム」を策定し、借入国政府が約束どおりにプログラムを実行した見返りとして、使途を限定しない形で融資を行うというものです。*2プログラムローンは、①構造調整のためのコストを間接的に支援する、②相手国政府による改革の実行にインセンティブを与える(特に財政・対外収支に問題を抱えている国の場合)、といった効果があります。ADBが導入する「改革プログラム」は通常、複数のフェーズに分けられます。例えば、スリランカの資本市場改革プログラムの場合、第1フェーズは13の政策項目(Policy Actions)が、第2フェーズでは19の政策項目が合意されており、各フェーズが完了次第、それぞれ$125 million(約140億円)の融資が実行されることとなります。フェーズ毎の融資を「トランチェ(tranche)」と呼びます。各フェーズの期間は概ね1~2年です。歴史を紐解くと、プログラムローンは1978年に石油危機後の借入国への対外収支サポートとして始まりました。その後1980年代後半には借入国の構造調整にその目的が拡大され、世界銀行やADBなどの国際機関が借入国自身の改革に対し構造改革を支援する ―南アジアの資本市場改革プログラムを例にアジア開発銀行南アジア局 金融セクター専門官 星野 拓哉(参考1)プロジェクトローンvsプログラムローン主な用途融資手法調達プロジェクトローンインフラ建設政府の個別の支出に対して融資ADBのルールを適用プログラムローン構造改革を進めるための財政支援プログラムのPolicy Actionsが実行された後に、政府の一般会計に融資相手国政府のルールを適用*1)本稿の執筆に当たり、ADBの髙宮氏(前戦略政策局)、林氏(前スリランカ事務所)及び複数の財務省・ADB関係者にアドバイスをいただいきました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。なお、本文中の意見については、全て筆者の個人的な見解であり、筆者の所属する組織を代表するものではございません。*2)ADBではPolicy Based Lendingと呼ばれるものが代表的なプログラムローンの例です。プログラムローンによる借入れが開発目的に効果的に使われることを担保すべく、ADBでは貸出を決定する前に、借入国の財政管理システムについて審査を行い、かつ国際通貨基金(IMF)との事前協議を行います。ファイナンス 2018.243連 載|海外ウォッチャー

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