ファイナンス 2018年2月号 Vol.53 No.11
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なった。図書館人と書店人がコミュニケ―ションを深め、お互いの本質的な役割を認識した上で、地域の人々がこれまで以上に豊かな読書生活を提案する活動を進め、その結果として「知の再生産」サイクルが地域社会から整備されていくことなどを話し合った。図書館へ本を納入する場合に地域の書店から納品するという鳥取県立図書館の取組み、図書館の中に書店を作る、過剰な複本を持たない、などがとりあげられた。特に、山梨では「やまなし読書活動促進事業」(「やま読」)という取組を関係者が実行委員会を作り実施している。図書館・書店などが水平的な関係で参画している。(2)ブックスキューブリック本の学校の2014年7月のシンポジウムの分科会では、「いま、本屋をやるには」というテーマで、パネリストに福岡・ブックスキューブリックの大井実氏、島根(松江)・アルトスブックストアの西村史之氏などが登壇した。取次会社などに新規開業を促進する施策の必要性を訴えた。大井氏は昨年初めての単著「ローカルブックストアである」(晶文社)を出版された。2001年に福岡市のけやき通りに15坪の新刊書店を開業するにあたって取次との契約条件が厳しかったことが指摘されている。どの取次も条件は横並びで、推定取引月商の3か月分の支払いもしくは担保の設定、かつ連帯保証人3人という条件だったという。前述のシンポジウムでこのことを訴えたところ、大井氏が2015年に開業を手伝った2件の本屋は保証金が大分下がった由。大井さんがいうに、「本屋は、書棚などの初期投資も馬鹿にならない。それに加えて、保証金も積まなくてはならないというのでは、新規参入を希望する人も萎えてしまう」のだそうだ。新規参入の促進による書店小売業の活性化に関しては何らかの公共政策の関与も考えられるのではないかと思う。大井さんは、2006年から行われている、秋の1か月をイベント期間とする「ブックオカ~福岡を本の街に」というブックフェスティバルの創立時からの有力メンバーである。また、2008年には、カフェとギャラリーを併設する箱崎店をオープンさせた。2016年には箱崎店の中にベーカリーを開設。「自分の感覚を信じ、それを一生懸命伝えることによって、反応してくれる人を集め、最大限におもてなしをしてリピーターになってもらう。」のだそうだ。そのおもてなしを日々続けて、「喜んでくれるお客さんを集め、きちんと事業をまわし、町をよくすることに少しでも貢献できる事業家精神を持った「当事者」がもっと増えてくることでしか、地方は活性化しない」と断言する。「ブックオカ」は2015年に10周年を迎え、写真8 ブックスキューブリックけやき通り店(福岡市)写真9 ブックスキューブリックの大井実氏写真10 店内の様子ファイナンス 2018.241図書館・書店を拠点とした地域活性化への展望~日本における「サードプレイス」の可能性 SPOT

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