ファイナンス 2018年2月号 Vol.53 No.11
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(4)サードプレイス2013年10月にアメリカの社会学者レイ・オルデンバーグの「サードプレイス~コミュニティの核になる「とびきり居心地のよい場所」」(原著:THE GREAT GOOD PLACE Cafes,Coffee Shops,Bookstores,Bars,Hair Salons and Other Hangouts at the Hart of a Community(1989))がみすず書房より出版された。本書の帯には、「居酒屋、カフェ、本屋、図書館・・・情報・意見交換の場、地域活動の拠点として機能する<サードプレイス>の概念を社会学の見地から多角的に論じた書、待望の邦訳。」とある。マイク・モラスキー氏の解説によれば、オルデンバーグのいうコミュニティ再生のための“third place”は、「とりたてて行く必要はないが、常連客にとって非常に居心地がよく、それゆえに行きたくなるような場所。会員制にはなっておらず、予約するような場所でもない。いつでもひとりでふらっと立ち寄って、店主やほかの常連客に歓迎される。そして帰りたいと思ったら、いつでも帰ればよい。その意味では、家庭とも職場とも著しく違う。ただし、家庭とは異なるものの、「アットホーム」な気持ちでいられることがサードプレイスの大きな魅力である。」という。まさに図書館・書店がその例として頭に浮かぶ。また、2013年は、「知の広場~図書館と自由」(2011年 みすず書房)の著者アントネッラ・アンニョリ氏がイタリアから来日し本の学校ほかで講演を行った。彼女は、司書歴30年余で、数々の図書館リノベーションにたずさわってきた。筆者は、2013年6月14日に日比谷図書文化館で開催された日比谷カレッジでの来日記念講演「世界の図書館で今、何が起きているのか?」を幸運にも傍聴することができた*8。柳与志夫氏の「知の広場」の解説によれば、アンニョリ氏は公共図書館の可能性のうち、「あらゆる資料と人を受け入れる共通の経験の場」「分別を持って比較しあい、議論でできる社交の場」としての「知の広場」の機能に特に着目しているという。柳さんの「図書館はもともとすべての人に利用可能な文献資源があり、これから発掘・創造される文化情報資源の集積や地域内に点在する資源情報の収集・組織化の情報ハブとなる素地がある」との指摘は、図書館を通じた地域活性化の大きな可能性を示している。3本の学校とブックスキューブリックの取組み(1)本の学校本の学校は、市民の読書推進や図書館づくりなどの運動と、今井書店の三代今井兼文の「ドイツの書籍業学校に学ぶべき」という遺志を継承し、1995年、秀峰国立公園大山を仰ぐ鳥取県米子市に設立され、以来地域を原点に「地域の人々の生涯読書の推進」、「出版界や図書館界のあるべき姿を問うシンポジウムやセミナー」、「出版業界人、書店人の研修講座」などに取り組んでいる。2012年3月1日より、特定非営利活動法人となった。これまで今井書店の一事業という印象が強かった本の学校を、より中立的で横断的な、当初めざしていたところの本来あるべき姿にいまこそ近づけるべきではないかという思いから、新たな一歩を踏み出したものだという。現在の理事長は3代目で星野渉氏である。特定非営利活動法人の初代理事長も務めた、永*8)講演では、来日して見学してまわった日本の図書館の椅子についての画像を示し、欧州のそれに比して、まったくゆとりのない事務的な椅子であることをユーモアたっぷりに批判していたのが記憶に鮮明だ。また、ちょうど、佐賀県の武雄市図書館が開館し、全国的な議論のさなかであったが、この図書館に批判的な方々が、権威であるアンニョリさんから、武雄市図書館に対する批判的な言質をとろうと何度も質問していたことにうんざりしたことも忘れられない。賢明にも、アンニョリさんはそのような言質を与えなかった。写真2 本の学校の外観(2階には研修室、多目的ホールなどがある)ファイナンス 2018.239図書館・書店を拠点とした地域活性化への展望~日本における「サードプレイス」の可能性 SPOT

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