ファイナンス 2018年2月号 Vol.53 No.11
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売上の状況は「出版不況」であるが、読者サイドからみるとそうなのか、という視点は重要だ*7。また、出版物という狭い範囲を超えて小売り全体を俯瞰すれば、藻谷浩介氏のベストセラー「デフレの正体 経済は「人口の波」で動く」 (2010年6月 角川oneテーマ21)まで持ち出さなくても人口減少が大きな要因であることはつとに指摘されているところだ。このような「不都合な真実」は出版業界でも受けないらしい。2図書館・書店の議論をするにあたって(1)「処士横議」の必要性この言葉をはじめて知ったのは、谷垣禎一財務大臣の就任1年目の広報室長をしていたときだ。財務省の所管とあまり関係のない質問が大臣会見で出た際に、大臣は、「ショシオウギセズ」と発言された。会見記録として文字化する必要があるので辞書で調べ、大臣の謙虚な人柄を彷彿とさせるわけだが、「素人がよく知らないことに口を挟むべきではない」という趣旨で大臣が使われたことが分かった。また、この言葉は、明治維新に至る過程で様々な意見が身分を問わずに出され、それらが日本の方向性を決める上で役割を果たしたというように、前向きの意味に使われるときもあることも知った。平成30年(2018年)は、明治元年(1868年)から起算して満150年の年に当たる。この「明治150年」をきっかけとして、明治以降の歩みを次世代に遺すことや、明治の精神に学び日本の強みを再認識することは、大変重要なことなので、政府においては、こうした基本的な考え方を踏まえ「明治150年」に関連する施策に積極的に取り組むこととされている。ここで「明治の精神」については、「機会の平等、チャレンジ精神、和魂洋才」などと例示されているが、「処士横議」も「明治の精神」といえるだろう。とかく、この図書館・書店に関する話題は、自由度が少なく、ある地域振興に精通したエコノミストの方も、この話題は「炎上」しやすいので避けて通るという*8。1で記したとおり、出版界は今、「明治維新」に匹敵するような大きな転機にある*9。いまこそ、この分野では「処士横議」が必要なのではないかと思う次第である。(2)「文化経済戦略」に「書店」・「図書館」の記述がほぼないことについて閣議決定「骨太2017」などに基づき、昨年末に、内閣官房文化経済戦略チーム及び文化庁が、文化と経済の好循環を実現する省庁横断の新政策を実行するため、「文化経済戦略」を策定した。業界の「「出版文化」こそ国の根幹である」(「新潮45」2015年2月号の特集)との自負にもかかわらず、この「文化経済戦略」では本や書店という文字は1度も出てこない。同じ社会教育施設に位置付けられる博物館(美術館を含む)についての施策は多数言及があるにもかかわらず、「図書館」という言葉は「主な取組(例)」の中で、デジタルアーカイブジャパンの構築の箇所で一度だけ国立国会図書館が言及されているのみである。主たる狙いが文化庁の機能強化などにあるということから、理解できないわけでもないが、正直非常に驚いた。*7)CNET Japan 「林智彦の「電子書籍ビジネスの真相」」の記事「出版不況は終わった? 最新データを見てわかること」(林 智彦(朝日新聞社デジタル本部) 2016年02月10日 参照) https://japan.cnet.com/article/35077597/林氏は、「毎年、二千数百億円の売り上げがある「コミックス」のうち、9割は「雑誌」の売り上げに計上されているのです。」という。また、「俗に「雑高書低」と言われますが、1970代末から始まり、80年代のバブル、そして現在に至るまで、日本の出版界では、雑誌の売り上げが書籍の売り上げを上回る状態が長く続いてきました。現在の出版流通システム(取次、書店)は、こうした雑高書低を前提に組み立てられています。雑誌(定期刊行物)を毎週、毎月、大量に書店に送り込むトラック便の「隙間」に本を詰め込む、という発想にもとづいた利益構造なのです。取次や書店のビジネスモデルも、数百万部の雑誌と数千~数万部の書籍の組み合わせによる商売が基本でした。ところが今、40年以上続いた雑高書低の時代が終わり、「雑低書高」の時代に突入しつつあります。」という。*8)「図書館の法令と政策」(樹村舎 2015年8月)で、著者の後藤敏行氏(現在日本女子大学家政学部家政経済学科准教授)は、参考文献の紹介にあたり、「図書館に関する法令を論じた解説書や研究書[中略]には、法令の解釈や解説にとどまらず、「図書館界の願望や要請」を主張するものも多い」ことを留意点にあげる。この分野の「空気」をうまく表していると思う。*9)2019年1月12日付の朝日新聞朝刊文化・文芸面で、「出版取り次ぎ「もう限界」」との見出しで、「出版市場の縮小で積荷は減少しているのに、配達は増え続ける」と報じている。雑誌物流を担う運転手も高齢化し、配達するコンビニは増えるのに、取引高は少なく非効率的で、十分な賃金も支払えないことから、運転手確保もままならないという窮状を指摘する。1月24日付 日本経済新聞朝刊2面でも「物流危機が迫る出版改革」との見出しで、この問題を報じている。ファイナンス 2018.237図書館・書店を拠点とした地域活性化への展望~日本における「サードプレイス」の可能性 SPOT

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