ファイナンス 2018年2月号 Vol.53 No.11
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点の衰退」と危惧する声も強い。」という。さらに同記事では、「トーハン(東京)の7月現在のまとめによると、ゼロ自治体が多いのは北海道(58)、長野(41)、福島(28)、沖縄(20)、奈良(19)、熊本(18)の順。ほとんどは町村だが、北海道赤平市、同歌志内(うたしない)市、茨城県つくばみらい市、徳島県三好市、熊本県合志(こうし)市、宮崎県串間市、鹿児島県垂水(たるみず)市など7市や、堺市美原区、広島市の東・安芸両区の3行政区もゼロだ。」ともいう。別の日本出版販売株式会社のデータでは、「この1年間で約300件の書店が閉店し、2016年度の書店の軒数は10,583件」だそうだ。週刊文春の人気コラム「夜ふけのなわとび」(2018年1月8日号)で、作家の林真理子氏は、依頼があれば自分の本にため書きも入れ、サインをして応援してきた、大好きな「幸福書房」(代々木上原駅前)が2月いっぱいで閉店すると聞き、思わず泣いてしまったと告白する。「街から本屋さんが消えると、風景が変わる。ひとつの文化がなくなってしまうのだ」*4。筆者は5年前に三鷹市に引っ越してきたが、三鷹での変化も大きい。ここ5年間で三鷹駅中のブックエキスプレスアトレヴィ三鷹店、駅ビルの中の文教堂書店、駅南口からすぐのところにあった三鷹の森書店が閉店した。しかし、あとでブックスキューブリックの紹介で考えたいと思うが、従来型モデルが成り立たないので減っているのだから、意欲ある方々の新規参入がなければ書店数が減る一方となるのは当然の流れのように思われる*5。ウ.出版事情公益社団法人全国出版協会・出版科学研究所は2018年1月25日、2017年(1~12月期)の出版市場(紙+電子)の統計を発表している。それによれば、2017年の出版物(書籍・雑誌合計)の推定販売金額は前年同期比6.9%減の1兆3,701 億円で13年連続のマイナスとなった。内訳は書籍が同3.0%減の7,152億円、雑誌は同10.8%減の6,548億円。書籍は11年連続のマイナスとなったものの、ヒット作が出て小幅な減少にとどまる一方、雑誌はコミックス単行本の大幅減少もあり、20年連続のマイナスで初の二桁減となり厳しい状況が続いているという。また、電子出版市場は前年比16.0%増の2,215億円。内訳は電子コミックが同17.2%増の1,711億円、電子書籍(文字もの)が同12.4%増の290億円、電子雑誌が同12.0%増の214億円。よく業界の方はトヨタ1社の利益にもならないと卑下される。なお、上記の公表数値にあるとおり、業界の分類では「コミック」が雑誌という分類に入れられている*6。従来の業態からみればいまの定義での*3)手元にある2005年8月号の月刊誌「論座」(朝日新聞社)は、「特集 やっぱり本屋が好き」であり、読み返すと、書店関係者の座談会「まだまだ本屋も捨てたもんじゃない」は、まだまだゆとりがあった時代だったようだ。それでも、「身近な本屋をなくさないような努力」の必要性はそのころから指摘はされていた。2013年の神戸海文堂書店の閉店を契機に、業界の有志が、2014年1月から、「町には本屋さんが必要です会議」を各地で開いたことは大きな出来事だった(その取組みは、「本屋会議」(夏葉社 2014年12月)となっている)。さらに、週刊ダイヤモンド2015年10月17日号(特集「「読書」を極める!」)に代表されるように2015年あたりから一般経済誌や全国紙でも書店、図書館、出版業界の状況が本格的に取り上げられるようになったと記憶する。2018年1月の読売新聞のくらし教育面の「18歳の1票」(毎週土曜日朝刊に掲載)のテーマは、まさに「書店の危機」であった。「1日に1店舗の割合で本屋が消えていく―。」から記事は始まる。*4)他の事業の中小事業者と同じく、代表者の高齢化や後継者不足が顕在化しており、事業承継が大きな課題となってきている。ちなみに、2017年12月に出版業及び関連産業(書店小売業も含む)を顧客基盤とする文化産業信用組合と日本政策金融公庫東京支店が事業承継に関する業務提携・協力の覚書を締結したことを発表した。*5)月刊誌「潮」(潮出版社)に、2015年6月号から2017年7月号まで長期連載されていた「書店を歩く」が編集し直されて本年1月に「「本を売る」という仕事」」(長岡義幸著)として出版された。出版流通に詳しい長岡氏は、東日本大震災の被災地を含め、全国の多くの書店を訪問し、「街の本屋」の本質としてお客さんとのつながりを大切にする「会話する書店」の意義を見出したという。*6)マガジン航「「出版不況論」をめぐる議論の混乱について 」2016年5月1日posted by 仲俣暁生 https://magazine-k.jp/2016/05/01/editors-note-12/「(前略)「出版」という言葉を伝統的な出版社のみが行う商行為として捉えるならば、「出版状況」とはいわゆる「出版業界(出版社、取次、書店)」の動向のみを指すことになる。しかしすでにウェブが一般に普及して20年、スマートフォンの登場からも9年の月日が経っている。いま20歳の人は生まれたときからウェブがあり、小学校高学年の頃からスマホがある世界に生きているのだ。出版とは何かという問いにであれば、「書籍」「雑誌」とは何かという問いによりも簡単に答えられる。「出版 publication」とは創作物や意見を公に表明する行為、そしてそれを支援する仕組みすべてのことだ。出版社はこれまで、publicationのもっとも重要な担い手だったし、これからもそうだろう。しかし、現在の「出版状況」を語るうえで、その対象を出版業界に限ってしまうことは、もはやほとんど意味がないと私は考える(そもそもアマゾンは出版業界のプレイヤーではない)。」との指摘は大変示唆深い。36ファイナンス 2018.2SPOT

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