ファイナンス 2018年2月号 Vol.53 No.11
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降も財政は悪化しないと考えられる。これらの点を考えると、個人所得税のほぼすべての項目を時限措置とし、かつ一部増収を生み出す措置をとり、これに経済成長等を加えることで11年目以降に財政の悪化を防ぐことが可能という説明が暗に示されているとも考えられる。ただし、最終的に予算委員長がどういった数字をもって「財政調整法は、11年目以降も財政悪化をもたらさない」と判断したかは公式には示されていないため、正式な説明は難しい点に留意する必要がある。9税制改革法が与える影響2018年1月1日から税制改革法の多くの項目が施行されている。他方で、詳細が不明瞭な部分があるとも指摘されており、その詳細な影響は明確になっていない。また、大規模な法案については多くの場合、成立後に技術的な修正等を行うための改正法が出されることが多く、今回の場合もその可能性がある旨、12月にブレイディ下院歳入委員長が述べている。なお、この技術的な修正は必ずしも財政調整法として提出されるわけではなく、仮に財政調整法とならない場合は、上院本会議でのフィリバスターを回避するには60票以上必要であり、議会運営が難しいと言われている(実際に、オバマ大統領時代に、オバマケア法案成立後にも修正を入れ込んだ法案が提出されたが、財政調整法にあたらないため、共和党の反対にあってしまったという経緯がある)。したがって、税制改革法の内容については、今後変更・確定される箇所があると考えられるが、税制改革法が及ぼすマクロの影響についての考察は随所で表明されている。(1)世論調査まず、税制改革法に対する支持率であるが、世論調査がいくつか実施されており、その結果は図表6に示した通りとなっている。トランプ大統領が常日頃批判しているCNN調査では、法案への賛成が3割程度となっているが、Politicoの調査ではそれよりも若干高い数値となっている。図表6〈税制改革法に対する世論調査〉CNN世論調査(対象期間:12月14日-17日)税制改革案に賛成か反対か賛成:33% 反対:55% どちらでもない:11%税制改革によって自分の負担がどう変わるか負担減:21% 負担増:37% 変わらない:36% 意見なし:5%Politico世論調査(対象期間:12月14日-18日)税制改革案に賛成か反対か賛成:42% 反対:39% どちらでもない:18%税制改革によって自分の負担がどう変わるか負担減:20% 負担増:33% 変わらない:25% 意見なし:22%(2)GDP成長率や財政への影響税制改革法が経済に与える影響ついては、まず、議会の両院合同租税委員会がその見通しを公表している*7。2018-2027年について、各項目における影響は以下のとおり。●GDP:税制改革法はベースラインGDP額と比べて、平均0.7%GDP額を押し上げると予測。10年間のうちほとんどの年については0.8-0.9%の押し上げ効果があり、10年間の期間の最後に近づくにつれて押し上げ効果は0.1-0.2%となる。押し上げ要因は、賃金にかかる税負担の減少にともなう労働供給力の拡大と、投資の増加が主となる。なお、各年において、GDP成長率をどの程度押し上げるかの数値は、正式には公表されていない。※GDPのベースラインは、2017年1月に議会予算局(CBO)が公表した経済見通し(2017年:2.3%、2018年:2.0%、2019-2020年:1.6%、2021-2027年:1.9%)に基づいている。●消費:労働力や資本の増加にともなう収入増及び個人への税負担軽減によって、可処分所得が増え、消費はベースラインと比較して平均で0.7%増加。●財政:改革による経済成長にともなって、10年間で4,500億ドル程度の増収が生まれる。そのため、改正全体で1.5兆ドル程度の減収となる分のいくらかが取り戻され、ネットで1兆ドル程度の減収となる。また、債務が増加することにともなって金利が上昇し、償還費が660億ドル程度増加。*7)“Macroeconomic Analysis of the Conference Agreement for H.R.1, the “Tax Cuts and Jobs Act””, Joint Committee on Taxation, Dec. 22, 2017ファイナンス 2018.231「トランプ税制改革」についてSPOT

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