ファイナンス 2018年2月号 Vol.53 No.11
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改正も含まれており、従前、課されていた保険加入義務に対する罰金が廃止され、これは2019年以降の恒久措置とされている。オバマケアでは、皆保険を目指して、個人保険に入っていない場合はペナルティ(罰金)が課されることとなっている一方で、低所得者にとって保険料が負担とならないよう、補助金が存在していた。例えば、所得が連邦貧困レベルの400%以下の場合は、医療保険取引所で購入された保険に対する税額控除が設けられるといった対応がなされていたのである。今回、保険の個人加入義務に対する罰金をゼロとし、実質的に義務を撤廃したこととあわせて、補助金もなくしている。これによって歳出の削減が行われることとなった(税制改革法の前にオバマケア廃止を審議していたのは、先に財源を確保する意味も持っていた)。また、この改正は、歳出削減によって財源を生み出すと同時に、共和党が目指したオバマケアへの切り込みも実現したという点で意義が大きいと言われている。2017年夏の審議でオバマケア廃止法案に反対を投じた議員にかなりの注目が集まったが、最終的には共和党幹部やトランプ大統領自らが説得にあたり、例えばコリンズ議員については、低所得者の医療について必ず対応策をとるという言質を共和党幹部からもらったという報道がなされている。8税制改革法と財政の関係ここで、再度財政への影響について見てみることとする。今回成立した税制改革法は、議会の両院合同租税委員会の試算によれば、10年間で1.46兆ドルの赤字を出すこととなる。予算決議における財政調整指示が「10年間で1.5兆ドルの赤字を許容」としているため、予算決議における指示は満たしていることとなる。他方で、前述のとおり、上院本会議では、財政調整法について「バード・ルール」が適用される。そして、予算決議の期間を超えて財政を悪化させるような法案はバード・ルール違反となり得る。この点について、一部のメディアや研究所から、今回の法案はバード・ルールに引っかかるのではないかといった指摘も出ていた。例えばペンシルバニア大学ウォートン校は、独自の予算モデル(PWBM)を用いて計算した結果、10年を超えて赤字が生じるため、提出されている税制改革法案はバード・ルールに反するといった見解を表明していた*5。しかし、現実には、法案は上院の財政委員会通過後、予算委員会を通過し、最終的に本会議で可決されている。つまり、予算委員長、パーラメンタリアン及び上院議長は、法案はバード・ルールをクリアしたとみなしたこととなる。成立した税制改革法について、バード・ルールをクリアした経緯を示す公式の数字・見解等は示されていないが、下記のような点に注目できるのではないか。・財政に与える影響が議論される中で、上院案の審議の際に修正が加えられ、個人所得にかかる改正を中心に、多くの項目が「2025年までの時限措置」とされた。これは、ブッシュ大統領時の税制改正でも、財政への影響を考慮してとられた手法である。・他方で、1)オバマケアによる個人の保険加入義務廃止に伴う歳出減、2)インデックス変更(CPIの指標変更)に伴う税収の自然増は恒久措置であり、これらの措置によって税収が徐々に増加する。・12月11日に米国財務省は、税制改革後経済成長及び税収の見通しを公表した*6。これによると、税制改革(上院案)及び規制改革、インフラ整備等が実現した場合、今後10年で実質GDPは平均2.9%の成長となり、合計で1.8兆ドルの税収をもたらすため、1.5兆ドルの減収を補ったうえで、さらに3000億ドル程度の黒字を生み出すこととなる。つまり、(2018年度予算教書でも示されている、成長率2.9%という見通しに基づいた)財務省試算によれば、10年間でも税収増が生まれるため、11年目以*5)“The Senate Tax Cuts and Jobs Act, Amended (11/15/17):The Byrd Rule”, Penn Wharton Budget Model, Nov. 22, 2017*6)“Analysis of Growth and Revenue Estimates Based on the U.S. Senate Committee on Finance Tax Reform Plan”, Department of the Treasury, Dec. 11, 2017ファイナンス 2018.229「トランプ税制改革」についてSPOT

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