ファイナンス 2018年2月号 Vol.53 No.11
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・住宅ローン利子控除は限度額が引き下げられる(夫婦共同申告で借入額75万ドル分まで認められる)、など、一部項目についての縮小又は廃止を含む改正が行われている。とりわけ、地方税額控除は審議の過程で大きな議論となった。当初は上下院ともに、州・地方の所得税及び売上税に係る控除を廃止し、財産税に係る控除については上限を設定するという案を掲げていたが、州・地方税負担が重い州選出の議員の反対もあり、最終的には縮小幅は狭められた形となった。それでも最終案の下院採決の際に反対票を投じた多くは、この点に反対していた議員たちであった。なお、これら個人所得税関連の改正事項の多くは、2025年12月31日までの時限措置とされているところ、遺産税及び贈与税についても、同じく2025年12月31日までの間、基礎控除が従前の549万ドルから倍増する措置が講じられている。遺産税の廃止は共和党の長年にわたる目標であったことから、トランプ大統領及び共和党指導部が9月に公表した税制改正の大枠でも掲げられており、下院案でも廃止が盛り込まれていた。高所得者のみが得する改正ではないかといった批判も生じる中で、最終的に遺産税は存続するという上院案に落ち着いた。(2)法人税等次に、法人税に関しては、米国経済の活性化や雇用の創出を図る観点から、一部の租税特別措置の廃止や縮減等による課税ベースの拡大と併せて、連邦法人税率が35%から21%へ引き下げられた。これにより、地方法人税(カリフォルニア州)を含めた実効税率は、40.75%から27.98%へ引き下げられたこととなる。また、当該税率での税額計算とは別途、各種控除等の活用による負担軽減の制限措置として代替ミニマム税の計算を行うこととされていたが、税制の簡素化を目指して、本制度は廃止されることとなった。なお、パス・スルー課税の対象となる小規模ビジネスの事業所得に対しては、2025年12月31日までの間、20%の控除が可能となり、これにより適用税率は37%が29.6%に、35%から28%のように実質的な引下げが行われたことになる。また、減価償却に関して、2017年9月28日以降2022年末までに取得かつ事業の用に供された一定の固定資産については、100%の即時償却が可能となるが、2023年以降段階的に縮小されることとされている。他方、今回の改正において、アーニング・ストリッピングルールと呼ばれる利子控除制限制度については従前の条項が廃止され、新たな条文が創設されることとなった。その結果、調整後課税所得の30%を超える部分について損金不算入となり、従前設けられていた負債資本比率による適用除外要件は廃止された。このほか、国内製造活動特別控除が廃止されたり、特定の役員に対する報酬の損金算入が制限されたりと、多数の項目において、細かな増収措置が講じられているが、当初より表明されていたとおり、研究開発税額控除などの重要な租税特別措置については維持された。(3)国際課税等国際課税の分野では、全世界所得課税から領域主義課税に原則的に移行することに伴い、外国子会社からの受取配当についてその全額を益金不算入とされたことに加え、移行措置として、1986年以降に国外で稼得・蓄積された資産に対し、一度限りで、現金性資産に対しては15.5%、それ以外の資産に対しては8%の課税を行うこととされた。また、租税回避への対応策として、外国子会社の無形資産から生じる所得について課税の強化が図られるとともに、新たに税源浸食・濫用対策税(BEAT:Base Erosion and Anti-abuse Tax)の導入等が盛り込まれたが、特に、BEATについては、租税回避を意図していない通常の国際取引にも影響を及ぼすおそれがあるとして、上下両院の合意前に欧州諸国から懸念が表明されている。他方で、詳細について現時点では不明な部分も多く、今後の動きに注視する必要がある。(4)オバマケア廃止関連最後に、今回の改正には、オバマケアに関する28ファイナンス 2018.2SPOT

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