ファイナンス 2018年2月号 Vol.53 No.11
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・ただし、上院については「バード・ルール」がさらにのしかかってくる。簡単に言えば、予算決議の期間を超える範囲、つまり11年目以降に財政赤字を増大させるような法案は、バード・ルール違反となり、単純過半数での可決ができなくなる。今回の法案は、予算決議という技を使い、かつ、その非常に複雑なバード・ルールを縫って可決されたこととなる。6法案の審議日程と異例のスピード採決さて、上述のとおり予算決議によって、本格化した税制改革法案の審議であるが、一連の審議日程は図表4に示されたようなスケジュールであった。11月2日に示された下院の税制改革法案が、法案の詳細な全体像としては初めてのものであり、これ以降下院修正案、上院案、上院修正案、両院協議後の最終案と矢継ぎ早に示されていった。米国議会では、重要法案の審議は相当程度の期間を要して採決されることが通常であり、例えばレーガン政権での税制改正法案は全体で3年近くの年月をかけて成立した。その間に、下院歳入委員会では30回の公聴会と26日の審議、上院財政委員会でも36回の公聴会が開かれ、両院協議会も2か月にわたる協議を行っている*3。また、オバマ政権で成立したオバマケア法案も委員会における公聴会や審議日程の長さが特徴と言われ、上院での25開会日連続の審議は史上2番目の長さと言われている*4。そのため、公聴会を一度も開かず、最初の法案提出から2か月を経ずに成立した今回の税制審議は異例の短時間と言われている。実際に、あまりの突貫作業であったため、最終的に上院本会議で採決を行った際には印刷が間に合わずに、修正箇所を手書きで書き込んだ案文が配布されていたほどである。また、レーガン税制改正時は、下院は民主党が、上院は共和党が多数を占めていたこともあり、法案は超党派での採決となった。これに対して今回の税制改革法案は、すべての採決で民主党議員全員が反対票を投じており、かつては超党派で合意できていた事項を民主党議員が修正案として提出した際も、議会では否決され、超党派の議論に応じる姿勢を見せていない。NY Times(2017年12月20日)では、共和党幹部は超党派を真剣〈コラム:バード・ルール違反の場合〉バード・ルールについて違反があると考えられる場合、上院議員は法案自体の修正案を提出するほかに、議事規則違反の申し立てを行うことが可能である。申し立てがあった場合、それが議事規則違反に該当するかの判断はパーラメンタリアンの進言に沿って上院議長(副大統領やその代行が務める)が行うこととなる。違反すると判断した場合は、その条項を財政調整法から落とすこととなる。なお、議事規則違反の申し立てが提出された際に、他の議員がバード・ルール自体の適用を回避するような採決を求めることも可能であり、この場合は全体の5分の3(60票)をもって回避可能となる。このように、最終的にバード・ルール違反の項目の取り扱いについてはパーラメンタリアンの判断に基づいて、上院議長が最終的に下すこととなっているが、上述の313条(b)(1)(E)に関して、財政調整法が予算決議期間を超えて財政を悪化させるか否かの判断は、予算委員長の権限と言われている。1974年予算法の312条では「歳出や歳入の水準は上下院の予算委員会の見通しに基づく」とされており、上院では慣例で、下院では明示的に、財政調整法が財政に与える影響にかかる最終判断権限は予算委員長にあるとされている(下院では、法案が財政に与える影響についての見解(Authoritative guidanceと呼ばれる)を示す権利を議事規則29条4項で議長に明示的に付与している)。*3)“The Tax Reform Act Of 1986:How The Measure Came Together”, The New York Times記事, Oct. 23, 1986*4)“History Lesson:How the Democrats pushed Obamacare through the Senate”, The Washington Post記事, Jun. 22, 201726ファイナンス 2018.2SPOT

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