ファイナンス 2018年2月号 Vol.53 No.11
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バード・ルールは、1974年予算法の313条に規定されており、当時、このルールを中心となって作成したバード(Byrd)議員に由来する。この条項は財政調整法に関して、法案の趣旨と関係のない(=Extraneous)事項は法案から除くことができる旨を規定した条項である。この「法案の趣旨と関係のない」ものとして、例えば財政状況に影響を与えない事項や、所管委員会の所掌外の事項等があるが、最も注目されているのは313条(b)(1)(E)であり、この項では予算決議の対象期間を超えて財政赤字を増大させる事項をバード・ルール違反と規定している。つまり、2018年度でいえば、10年という予算決議の期間を超えて、財政赤字を増大させるような法案はバード・ルール違反となり、上院本会議において単純過半数の採決では可決できなくなるのである。1974年予算法313条(b)(1)(E)(E) a provision shall be considered to be extraneous if it increases, or would increase, net outlays, or if it decreases, or would decrease, revenues during a fiscal year after the fiscal years covered by such reconciliation bill or reconciliation resolution, and such increases or decreases are greater than outlay reductions or revenue increases resulting from other provisions in such title in such year;「予算決議の期間より後に、歳出を増やす、もしくは歳入を減らす事項であり、それがほかの条項による歳出減もしくは歳入増よりも大きい場合、この事項は法案の趣旨と関係ないと判断される」整理すると、・予算決議によって必要な歳出、歳入の水準が示され、2018年度予算決議では、歳入減を行う一方で歳出カットも行い、将来的には財政赤字を削減する見通しを示している。・歳入減は税制改正にともなう減税によるものであり、1.5兆ドルの赤字を許容する税制改革案の作成が財政調整措置として指示された。つまり、10年間で1.5兆ドル以内の赤字におさまる法案であれば、財政調整法として、上院を単純過半数で通過することが可能となる。〈コラム:財政調整措置と減税法案*2〉財政調整措置については、その原則的な意味は財政の健全化や債務の削減を促すという点にあり、減収によって財政を悪化させる、いわゆる減税の法案を財政調整措置の対象とすることは、その信念に反しているとも考えられる。そのため、財政調整指示事項に減税法案を指定できるかは常々議論となっていたようである。最も注目されたのがブッシュ減税の時で、2000年、2001年それぞれの予算決議で、減税による減収を指示した財政調整措置が出されており、いわゆる減税法案に財政調整措置が使われたのは、これが初めてであった。これは議論を呼び、・財政調整措置は債務を減らす法案に限って使われるべきだという主張と、・1974年予算法310条では、必ずしも「債務を減らす」という文言は出ておらず、債務状況を「変更する」という言い方がされていることをもって、財政調整措置は中立的であり、減税に使ってもよいという主張が対立した。その後、2007に民主党が上下院で優勢となり、「債務を増やすような財政調整措置は認めない」というルールを院の決まり事として作成したものの、2011年に下院、2015年に上院でその決まりは撤廃され、現在は財政調整措置にそのような制限は設けられていない。そして、今回も減税となる法案において、財政調整措置を駆使するという手段がとられたのである。*2)“The Budget Reconciliation Process:The Senate's “Byrd Rule””,米国議会調査局, Nov. 22, 2016等参照。ファイナンス 2018.225「トランプ税制改革」についてSPOT

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