ファイナンス 2018年2月号 Vol.53 No.11
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算決議は「法律」ではないため、大統領署名を必要とせず、また、示された大枠について法的拘束力はない。そして過去には予算決議が遅れたり、採決されなかったりした年も多く存在する。さて、予算決議には、予算の大枠を示すことの他に、重要な意義がある。これが1974年議会予算法の第310条に示されている「財政調整措置(Reconciliation)」であり、今回の税制改革法を成立させる上で大きな意味を持ったのも、まさにこの部分であった。財政調整措置は、予算決議に示された歳出や歳入の方針を実行に移すための手段であり、議会調査局によると「原則的には、歳出削減や増収によって債務を減らすために使われてきた」。予算決議の中で、財政調整措置として指示された事項は、財政調整法として所管委員会で審議される。そして、円滑な実施を促すために、各院で審議時間の上限等が設けられ、とりわけ上院本会議については、審議時間が20時間に制限されることに加え、修正も法案に密接に関連したものに限られる。今回予算決議が重要なステップとされた背景には、この審議時間の制限があり、この制限こそが、税制改革法が上院本会議を突破するための必須条件となっていた。すなわち…米国の上院本会議は100名の議員で構成されるが、議員の演説時間に上限がないため、フィリバスター(議事妨害)が可能である(歴史をさかのぼると、演説を24時間立て続けで行った議員や、シェイクスピアの朗読や料理レシピの朗読を行って長時間演説をした議員など、様々な例があるようだ…)。そして、こういったフィリバスターを回避するためには、60票で「Cloture」と呼ばれる採決を行い、審議時間を制限することが必要であるが、共和党は52議席(2017年時点)しか持たないため、フィリバスター回避の採決は共和党単独では通せない状況にあった。つまり、通常であれば、法案は上院本会議でフィリバスターに遭ってしまい、いつまでたっても可決されないこととなる。このような状況のもとで、審議時間に上限が設けられ、フィリバスターの対象とならない財政調整措置は、法案を上院本会議において「単純過半数」で通過させるために、共和党として絶対に必要な手段だったのである。図表2〈予算決議と税制改革法案の枠組み〉・10月26日に成立した2018年度予算決議において、2018-2027年の10年間における歳入、歳出の予算水準を示し、その大枠の下で税制改革法案を「財政調整措置」の対象とした。・減税については大幅な歳出削減と併せて行うこととしており、これに経済成長による収入増を加えて収支は10年後に改善する見込み。【財政収支の改善(2018年度から2027年度(10年間))】※CBO(議会予算局)の推計現行制度の下での10年間の債務合計:▲7.3兆ドル→予算決議による政策変更後の10年間の債務合計:▲2.6兆ドルに改善(2027年度(10年目)には、1,970億ドルの財政黒字を達成)【2018年度から2027年度(10年間)の予算の大枠】‣歳入:▲1.6兆ドル、歳出:▲5.1兆ドル(医療費、交通関係費、住宅政策費、生活保護費等の削減)‣経済成長による収入増:+1.2兆ドル【財政調整措置の重要性】・1974年予算法に定められた措置(財政規律の維持を目的とした審議プロセスの迅速化)。・予算決議において、各所管委員会に「財政調整措置」を指示することが可能。・「財政調整措置」の対象となった法案は、上院において、フィリバスターを回避して単純過半数で可決が可能。※ただし、予算決議で定めた期間を超えて財政収支の悪化をもたらさないことが要件となっている(バード・ルール)。・共和党は上院で100議席中52席のため、税法を確実に通すためには、財政調整措置の活用が必須であった。2018年度予算決議において、上院財政委員会・下院歳入委員会に対し、10年間で計1.5兆ドル以内の財政赤字を許容する(税制改革)案の作成を指示。ファイナンス 2018.223「トランプ税制改革」についてSPOT

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