ファイナンス 2018年2月号 Vol.53 No.11
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くなっており、大きな議論を呼んだ「国境調整措置」については、共和党素案でのみ言及されている等、いくつか違いは見られるが、個人・法人所得の大幅な減税や税制の簡素化、国際的な潮流に乗った改正といった基本の骨格は変わらない。3トランプ大統領就任後~オバマケア廃止法案の否決就任後トランプ大統領は連日ニュースを占拠していた。例えば、一部の国からの入国禁止命令、TPP・パリ協定の離脱表明、シリアへの攻撃等。他方で、入国禁止命令には裁判所の差し止めが行われ(その後条件付き解除)、シリアの攻撃についてはその後の姿勢が不明瞭であると批判がおき、支持率も就任直後から5割を切るという状況が続いていた。この中でも、議会運営という観点から、トランプ大統領だけでなく共和党議会にも注目が集まったのがいわゆるオバマケア(Affordable Care Act)廃止の議論であった。オバマケア廃止については、その代替案が5月に僅差で下院を通過したものの、上院では提出された法案がすべて否決され、廃止法案は成立しなかった。7月末に行われた一連の採決では、5月から協議されていた法案は賛成43票、反対57票で否決。その後提出された、オバマケアを二年後に廃止し、その間に代替案を作成する法案は賛成45票、反対55票で否決。最後に提出された「スキニー」と呼ばれる、オバマケアの大部分を残しつつ一部のみ廃止する法案も賛成49票、反対51票で否決された。共和党は上院で52議席を持っていたため、2名までの造反を許容できるが、最終的に共和党の大物議員であるマケイン議員(アリゾナ州)の他に、コリンズ議員(メーン州)、マカウスキー議員(アラスカ州)の合計3名が反対し、法案は否決された。とりわけオバマケア廃止については共和党政権が従前から主張しており、かつ、下院での採決後にも長期間協議を重ねてきただけに、上院での審議について、共和党の議会運営に懸念を示す声があがる状況であった。4税制改革法成立のために必須だった「予算決議」(1)予算決議とはそこで、秋に向かって、税制改革法審議への機運がさらに高まっていくこととなる。就任から何日も経っている中で、重要法案といわれる法案を一つも成立させられていない点について、トランプ大統領のみならず、共和党の指導力不足という報道が多く出るようになっていたが、これがむしろ税制改革法案審議を促したという見方が多い。例えばニューヨークタイムズ(2017年12月20日)では、「オバマケア廃止の失敗が共和党議員を税制改正という一つの目標に向けて団結させた」と振り返っている。そして、その税制改革法の成立を可能とするために、今回重要な役目を果たしたのが「予算決議」である。2018年度の「予算決議」が上院を通過した際には、トランプ大統領は「共和党の税制改正を前に進める重要な一歩」とツイートし、10月26日にこれが成立した際は、ホワイトハウスは「トランプ大統領は、2018年度予算決議を成立させ、国民への約束を守った議会を賞賛する」旨の声明を出している。それほどに「予算決議」は税制改正に向けての大きな一歩と考えられていたが、この理由は何なのか。予算決議とはどういったものなのか。以下少し詳細に整理する。米国では、毎年2月に大統領が予算方針を示す「予算教書」が、行政管理予算局から議会に提出される。そして、予算教書から6週間以内に、議会の各委員会は、それぞれの予算の方針・水準を予算委員会に報告し、それを受けた予算委員会は議会として、今後(最低でも)5年以上の予算方針をまとめた「予算決議」を示し、それを4月15日までに議会で採決することが求められる。この予算決議にかかる一連の流れは、1974年予算法301条に規定されている。1974年予算法以前は、予算決議は存在せず、議会は予算の全体像を持たずに個別に歳入や歳出の法案を審議していたが、こういった状況の改善を目指し、議会として適切と考える歳入や歳出の水準の大枠を示すために制定されたのが予算決議である。他方で、予22ファイナンス 2018.2SPOT

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