ファイナンス 2018年2月号 Vol.53 No.11
25/60

革がなされた。その結果、経済に与える影響として、設備投資の拡大や雇用の促進といった効果がもたらされたとの一定の評価がされている一方、税収に対する影響としては、歳入見積額は概ね当初の見込額どおりに推移したが、歳出削減は計画どおりには進まず、財政赤字の問題は依然として解決されなかったとされている。その後近年ではブッシュ大統領の際にも2001年~2003年にわたり、3回の税制改正が行われた。これらも減税政策が中心であり、個人所得税率の引下げや児童税額控除額の拡大、遺産税の段階的廃止、法人税に関する初年度特別償却枠の拡大といった改正が行われている。もっとも、ブッシュ政権で行われた改正は、時限措置のものが多かったが、他方でその後のオバマ政権において、いくつかの措置については期限延長がなされている。例えば、1,000ドルの児童税額控除の恒久化や、長期キャピタルゲイン及び配当課税に対する減税措置の一部恒久化が含まれている。これらの大統領はいずれも共和党の大統領であり、税制改正、とりわけ減税は共和党の大きな方針であり、悲願であったといえる。今回の税制改正を主導し、税制改正における「Big Six」と呼ばれる幹部集団の一人であるライアン下院議長は、初めて議会で仕事をした1992年から20年以上にわたって、「税制改正」を最大の使命として掲げており、今回の税制改革法案が下院で最終的に採決される際は、割れんばかりの大声で採決を読み上げ、小槌を力いっぱい叩く場面があった。この場面は「悲願の達成」の象徴として紙面やニュースで多く取り上げられることとなる。そのような共和党の悲願は、今回の税制改革法に大きな影響を与えており、内容面でも従前からの共和党案が基本的な骨格になったと言われている。民主党オバマ政権時代の2014年に、下院の有力な共和党議員であるデイブ・キャンプ議員を中心として「キャンプ案」とよばれる税制改革法案が議会に提出されている。この案は、法人税率の引下げに加え国際的な流れに沿った税制改正となっていた。当時は、民主党と共和党で折り合わない箇所も多く、税制改正は実現しなかったが、その後、2016年6月に共和党は「A Better way-Our vision for a Condent America」という素案を公表した。また、トランプ大統領も大統領選の公約に税制改正を大きく掲げており(「100-day action plan to Make America Great Again」)、これら3つの比較は図表1に記している。後者二つはキャンプ案よりも法人税率の引下げ幅が大き図表1〈米国税制改革案の主な項目の比較〉キャンプ案(2014年)下院共和党の改革案(2016年6月)トランプ大統領公約(2016年10月時点)個人所得税関係・10-25-35%の三段階・人的控除を基礎控除に統合して、基礎控除を増額・一部の事業にかかる経費や地方税控除のうち事業にかかるもの以外を廃止・12-25-33%の三段階・人的控除を基礎控除に統合して、基礎控除を倍増・住宅ローン控除と寄付金控除以外の項目別控除の廃止・12-25-33%の三段階・人的控除を基礎控除に統合して、基礎控除を大幅に増額(倍増以上)・項目別控除に上限を設定遺産税維持廃止廃止法人税関係税率(連邦)・35%→25%(5年間の段階的引下げ)・35%→20%・35%→15%その他・租税特別措置を廃止・改正 等・租税特別措置を原則廃止(研究開発税制を除く) 等・租税特別措置を原則廃止(研究開発税制を除く) 等国際課税・本国への資金還流を促すため、米企業がこれまで海外に積み上げた内部留保に課税(現金等8.75%、非流動性試算3.5%、8年かけて支払い可能)・領域課税方式を採用・本国への資金還流を促すため、米企業がこれまで海外に積み上げた内部留保に課税(現金等8.75%、非流動性試算3.5%、8年かけて支払い可能)・領域課税方式を採用・本国への資金還流を促すため、米企業が海外に留保している利益を、みなし配当として一度だけ課税(税率10%)・領域課税方式を採用その他・国境調整措置について言及なし・米国企業が公平な条件で競争可能となるよう、「国境調整措置」を導入(輸出免税、輸入課税)・「国境税」については言及なし(出典)キャンプ案:“The Tax Reform Act of 2014”。下院共和党改革案:“A Better Way, Our vision for a Condent America”トランプ大統領公約:“100-day Action Plan to Make America Great Again”ファイナンス 2018.221「トランプ税制改革」についてSPOT

元のページ  ../index.html#25

このブックを見る