ファイナンス 2018年2月号 Vol.53 No.11
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(注)本稿の意見にわたる記述は、筆者の個人的な見解である。また、本稿は原則として平成30年1月15日時点で記述したものである。1はじめに…2017年12月22日、米国で、税制改革法案(「Tax Cuts and Jobs Act, H.R.1」)がトランプ大統領の署名を経て成立した。この改正は「レーガン大統領以来30年ぶり」の税制の大改正という言われ方もされており、米国はもちろん各国のメディアでも審議状況が大きく取り上げられ、税制改革法が成立に近づくにつれて、米国の株価は連日高騰した。世界最大の経済大国の税制改正であれば、注目が集まることは当然と言えるが、今回は、税制改正の中身、とりわけ「減税」がどの程度のものになり、だれに影響するのか、経済にどの程度影響があるのかについても、大きな焦点となっていた。そして、それと同様に、もしくはそれ以上に、トランプ大統領就任から1年を迎える中で、この税制改革が「大統領の、そして共和党の初めての大きな実績」となるのか、という点に注目が集まっていた。2018年の中間選挙を控え、政治的にも制度的にも大きく注目された改正であったといえる。当初、税制改革への成立期待は低く、CNNやブルームバーグ等のメディアだけでなく、Brookings Institute等の大手研究所でも、「税制改正は成立しない」と断言していた。トランプ政権は、発足直後から、大統領の司法介入問題が取りざたされる等、法案以外にも話題が絶えず、加えて2017年の夏ごろ、オバマケアの廃止をめぐる法案が共和党内部の反対によって上院で否決され、簡単には税制改革法が成立しないと考える理由が多数挙げられる状況であった。しかし、このような情勢の中、トランプ政権および議会共和党指導部は、わずか2か月の間に怒涛の議会日程を経て、税制改革法を成立させたのである。どうしてそれが可能であったのか、その「歴史的」な改正の中身はどういったもので、どのような影響をもつのか。こういった疑問に焦点を当て、本稿では、税制改革法の中身と、その成立過程における議会のプロセスや改正の影響見通し等について、改めて整理していきたい。2税制改正の歩み~トランプ大統領就任まで前述のとおり米国では1986年にレーガン大統領が税制改革を行っている。この改革は、レーガン大統領が1981年の就任当初に行った大規模な減税政策の結果、「双子の赤字」と呼ばれる財政赤字・経常赤字が拡大するとともに、税制が複雑かつ不公平になってしまったことが問題視されたことを踏まえ、減税ではなく歳入中立を前提として行われた。主な内容としては、所得税及び法人税について、公平・簡素及び経済成長のための税制改革を掲げ、各種租税特別措置を廃止して課税ベースを拡大することで確保される税収を財源として、・個人所得税を11%から50%の14段階から、15%、28%の2段階とし、・連邦法人税率を46%から34%へ引き下げるなど、税率構造のフラット化を主眼においた大胆な改Spot01*1)本稿の作成にあたっては、在米国大使館をはじめ関係各課にも協力をいただいた。「トランプ税制改革」について主税局調査課  日向寺 裕芽子/塩田 真弓*120ファイナンス 2018.2SPOT

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