ファイナンス 2017年12月号 Vol.53 No.9
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B国訪問の機会に昔からの知合いに相談する(2014年8月)サーベイランス(マクロ経済の調査・分析)のため、ASEANと日中韓の各国を年に一回訪問することにしていましたが、その年のB国訪問は8月下旬に予定されていました。先方主催の昼食会があり、暫定議会への署名権限を求める議案の提出状況が話題になりました。先方より、「既に8月8日に暫定議会は招集されているが、B国財務省として何の審議をお願いするかを検討中の段階にあり、当然AMRO協定への署名権限の付与は優先的に取り扱うことになるはず」との早口の滑らかな4444444説明がありました。その早口の滑らかさにやや違和感を覚えました。昼食後は、昔から親交のある経済学者で、行政経験も豊富な人と二人だけでの面会でした。面談の最後に、「AMRO協定への署名権限について事務方からこんな早口に滑らかな説明があったんだけど」と相談すると、先方は「物事の優先順位について混乱している怖れがある、おそらく予算とか税法とかを10月からの予算年度の開始を前に最優先に暫定議会に持ち込もうとしているのではないか」という反応でした。「自分なら、他の12か国を待たせていて、しかも内容に問題のないAMRO協定は、中身に議論が必要な案件の前に承認を得たほうが得策、と判断するが、大局的な段取りの計算ができていないのだろう」との見立てでした。暫定政府首脳部の軍人出身者に自分の教え子がいるからそちらは自分(知人)から説得しておく、加えて、暫定議会方面に知り合いのいるB国官僚OBに数人心当たりがあるから、今と同じ話をAMRO所長が自ら説明に行って根回しを依頼した方がよい、ということになりました。知人の助言に従い、(1)AMROの国際機関化は東アジアでの通貨危機の再発防止のための取組みであり、これまでB国はその設立に主導的役割を演じてきた、(2)ところが、B国の財務大臣が署名できないために、他の12か国は9か月近くそれぞれの議会審議に入れずにいる、(3)B国としてAMROに参加するかどうかの正式の議会承認は新憲法の下での議会で改めて議論・決定される(今回の議会承認は文言を確定するために財務大臣が署名する権限を付与するだけのものである)、の3点を手分けして説明しようということにしました。翌日以降、その週の残りは通常の経済の面談はキャンセルして、そのエコノミストの知合いのOB数人を文字通り夜討ち朝駆けして説明しました。あるOBは朝8時にオフィスで出勤を待ち受け、別のOBは夜10時に場末の料理屋で打合せをしているところを捕まえました。夜遅くに驚くほどの数の政権の要人が揃っていました。幸いにして何人かは10年来の顔見知りで、二つ返事でそれぞれの知合いへの説明を約束してくれました。念のために、B国財務省にも再度訪問して、議会対策担当の幹部に、上の3点を丁寧に説明の上、*3)シンガポールは情報の集積地で、B国における国政の決定の迅速化を目的とする暫定憲法の準備については知人から聞いていました。手元のメモによると話を聞いたのは3月27日であり、数か月の間頭の体操をする時間があったことになります。*4)憲法停止中なのだから暫定政府の決定で署名可能という解釈もありえたのですが、当方から示唆するのは控えました。暫定議会に提出するのが前向きの動きであり、提出さえされれば60日後には結論が出ているという意味で、あとは暫定議会が招集され、議案が提出されるのを待てば、活路は開けそうだったからです。*5)個人的伝手を頼りにB国情勢に詳しい人の話を聞くと、暫定政府首脳部としては、8月にも召集される暫定議会の承認を求めることとした模様である、とのことです。従って行政府側が、いつ暫定議会に議案を提出するかが鍵になると推測されました。B国の下院の解散のため、他の12か国が署名式を開催できずに9か月近く待ちぼうけという、急を要する理由を暫定政府首脳部が認識しているかが懸念されました。もしかすると、内容の確定のための大臣による署名(B国は国際法上の義務は負わない)と協定の締結についての議会による承認(B国は国際法上の義務を負う)が混同されていることが危惧されました。ファイナンス 2017.1229国際機関を作るはなし ASEAN+3マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)創設見聞録 連 載|国際機関を作るはなし

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