ファイナンス 2017年12月号 Vol.53 No.9
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あれば、インスタやツイッターで「いま39階にいてテロリストに囲まれてます!」パシャ、とでも自撮りをアップしそうなものだが、この時代はやはり無線である。武骨な「ガー、ピー」音に続き悲惨な状況をつぶやくマクレーンの弱さが、観客の心を打つ。そして最後に、その主人公を取り巻くキャラクターも光りまくっている。・「100万ドルの交渉もしてきたんだ。テロリストとの交渉なんて朝飯前だ。」と言って無謀にも交渉役を買って出て、敢え無くマクレーンの秘密だけバラして殺される残念な商社マン。・ドーナツが大好きな気のやさしい太った黒人警官。・現場を仕切ると言いながら失敗ばかりする官僚的な地元警部と、上から目線でそいつから現場指揮権を取り上げたはいいが、自信過剰すぎてほぼ何もできずに失敗するFBI。・マクレーンの家族まで取材に行き、ますますマクレーンを窮地に追い込むテレビレポーター。・『人質とテロリスト、テロリストと人質』という意味不明な本の著者で専門家を自認し、「ヘルシンキ症候群」を解説するはいいが役に立たない博士と、「ヘルシンキ」と聞いた瞬間に「スウェーデンのね」と合いの手を入れて「フィンランドだ」とすぐに訂正されアホを晒すニュースキャスター。よく見れば魅惑の「ステレオタイプさん」たちの乱れ打ち。絶望と機転の連鎖が起こるビルの回りで、こうしたステレオタイプさんたちの登場が観客にとって一服の清涼剤となる。他の余計な要素を持ち込まない脚本の秀逸さが際立っていると言える。制約された条件の中で、一番悲惨な状況を想定し、典型的な言葉をまわりに散りばめながら、「機転」を利かせて切り抜ける。よく見てみれば、想定問答の作成に必要な要素の全てが、本作に詰まっていることは言うまでもない。最後に流れるダイ・ハードシリーズお約束、ヴォーン・モンローの「Let it snow! Let it snow! Let it snow!」が、本作が最高のクリスマス映画であることを示している。これを読む若い官僚諸君は、是非クリスマス休暇に本作を鑑賞し、来るべき国会審議に向け想定技術を磨いてもらいたいものである。ファイナンス 2017.1225わが愛すべき80年代映画論連 載|わが愛すべき80年代映画論

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