ファイナンス2017年11月号 Vol.53 No.8
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連 載|日本経済を考える続いて図8についてである。図8の世帯主年齢60歳以上については先行研究の四方・田中(2016)では触れられていないので、『国民生活基礎調査』から求めた値のみを記載する。全体的に図6と比較して数値が大きく、格差が大きい傾向に有り、先行研究で述べられている近年の所得格差の拡大は人口の高齢化に起因するという定説とも一致する。なお、60~64歳と65歳以上の2004年と2010年の数値を比較すると、60~64歳と65歳以上の数値が逆転しており、2004年に行われた年金制度改革や2006年の高年齢者雇用安定法の改正の影響を示唆しているものと思われる。6.世帯主が現役世代(20~59歳)の世帯における所得要素の寄与度分解図9は『国民生活基礎調査』の現役世代の世帯主年齢が20~59歳における等価可処分所得の各所得要素別の変動係数に対する寄与度分解を行ったものである。図10は、四方・田中(2016)の『全国消費実態調査』に基づく数値である。所得要素の寄与は、どの年度も世帯主の就労収入によるものが一番大きく、格差の縮小に大きく寄与しているのは税・社会保険料である。この傾向は、『国民生活基礎調査』も『全国消費実態調査』も共通であり、この結果は先行研究とも一致する。現金給付その他と税・社会保険料は年度による違いはあるが、格差を縮小させる方向に寄与していると言える。各所得要素の寄与度の傾向は年齢階層別に異なる。先行研究では、世帯主の年齢が平均的に上昇することによって世帯主の就労収入の寄与度も上昇し、格差が拡大する可能性が指摘されている。加えて、世帯主の配偶者の就業形態が年齢階層によって異なることも指摘されている。若年層は正規雇用の配偶者が多いため、高所得の配偶者が多くなり、格差を拡大させている。少子高齢化及び晩婚化に伴う世帯構造の変化が与える影響は大きく、資産収入の格差拡大への寄与度は若年層と比較して中高年層が大きくなってくる。7.世帯主が高齢世代(世帯主年齢60歳以上)の世帯における所得要素の寄与度分解図11は、60~64歳における等価可処分所得の変動係数に対する所得要素の寄与度分解の結果であり、図12は65歳以上の結果である。まず、図11の60~64歳の世帯主の就労収入についてであるが、2007年を除いて20~59歳とあまり変わらず、60~64歳においても再雇用や定年延長で就労を続けている者が多いと思われる。配偶者についても同様の傾向が見られる。その他の世帯員及び資産収入については、資産形成や子供の就職による影響で、その寄与が20~59歳よりも大きくなっている。また、税・社会保険料が格差縮小への寄与の高さは20~59歳よりも高い傾向にある。続いて、図12の65歳以上であるが、企業の定年は対象とする2004年~2010年では60歳ないし65歳までが一般的であるので、世帯主の就労収入の寄与は20~59歳や60~64歳と比較して大幅に減少する。加えて、その他の世帯員の収入や資産収入、現金給付その他の格差拡大に占める寄与度が全世代を通して一番高いのが特徴であると言える。図8 世帯主年齢60歳以上の2人以上世帯の寄与度の合計の推移(国民生活基礎調査)60~64歳65歳~全年齢20~59歳1.0000.9000.8000.7000.8900.7450.7050.7880.6980.6800.6960.6370.8900.7290.7990.7000.6000.5000.4000.3000.2000.1000.000200420072010出所:国民生活基礎調査各年度個票より筆者作成。56ファイナンス 2017.11

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