ファイナンス2017年11月号 Vol.53 No.8
57/66

連 載|日本経済を考える的貧困率は16.0%、『全国消費実態調査』は10.1%であり、5.9%も『国民生活基礎調査』が高い値となっている。先行研究で言われるように、格差の拡大が高齢者層の増加によるものならば、高齢者のサンプルが多い『国民生活基礎調査』の相対的貧困率が高くなるのも自然であると言える。図5は、全世帯と高齢者世帯について1997年~2009年の『国民生活基礎調査』の公表値に基づきジニ係数の推移をまとめたものである。全世帯は横ばいであるが、一般的に格差拡大の原因とされている高齢者世帯についてはジニ計数が下降している傾向にあると言える。3.所得格差の寄与度分解に関する先行研究所得格差の寄与度分解には、大きく分けて2つの分析手法がある。1つは、四方・田中(2016)が用いている世帯所得の格差を所得要素により寄与度分解する方法である。2つ目は、全体集団の格差を部分集団の格差と部分集団の構成割合に分解する方法である*4。前者による所得格差についての分析は、我が国では1970年代から1980年代を対象に跡田・橘木(1985)が研究を行ったことから始まり、比較的早い1980年代から研究が行われている。また、1990年代以降を対象とした研究は主として、ダグラス=有沢の法則を巡る世帯主とその配偶者の就労収入が格差拡大を引き起こすかについての研究や配偶者の就業行動等についての研究であり、国内ではかなり多くの先行研究がある。しかしながら、各研究の結論は異なっており、配偶者の所得が世帯所得の格差に与える影響に関して明確な答えは出ておらず、それ以外の所得要素に至っては、ほとんど研究の対象になっていなかった。そこで、本稿では四方・田中(2016)の手法を参考にし、2004年から2009年までの『国民生活基礎調査』の個票データを用いて、世帯主とその配偶者の就労収入に限らず、その他の世帯員の収入や資産収入、現金給付その他、税・社会保険料という可処分所得を構成する所得要素を用いて世帯の所得格差の寄与度分解を行う。なお、後者を用いた研究は、年齢構造、家族形態、就業状態等の世帯属性によって所得格差の寄与度分解を行っている。いずれも大竹(2005)と同様、高齢化によって所得格差の大きい高齢層の占める割合が上昇したことで所得格差の拡大が生じているという結論になっている。4.本稿で用いる分析手法等4.1 使用するデータ本稿の使用データは、『国民生活基礎調査』(厚生労働省)の平成16年(2004年)、平成19年(2007年)、平成22年(2010年)度版の個票データである。必要に応じて、上記以外の年度の公表値、『全国消費実態調査』(総務省統計局)の公表値を参照した。『国民生活基礎調査』では、「世帯票」から住居、乳幼児保育、就業、介護者の状況等、世帯に関する項目、「所得票」から種類別金額、所得税等の額、生活意識の状況等、所得に関する項目、「貯蓄票」から貯蓄現在高、貯蓄の増減状況、借入金残高等、貯蓄に関する項目を把握できる。個票データでは「所得票」と「貯蓄票」は一つのデ*4)この2つの分析方法は、Mookherjee and Shorrcks(1982)及びShorrocks(1982)によって提唱された。後にJenkins(1995)により定式化が行われ、本稿はその定式を用いて変動係数の寄与度分解を行った。図5 1997年~2009年の全世帯と高齢者世帯のジニ係数の推移19970.440.430.420.410.400.390.380.370.360.3520002003200420052006200720082009全世帯高齢者世帯(出所)厚生労働省『平成23年 国民生活基礎調査の概況』を基に筆者作成。ファイナンス 2017.1153シリーズ 日本経済を考える71

元のページ  ../index.html#57

このブックを見る