ファイナンス2017年11月号 Vol.53 No.8
49/66

関の法的水準を他の国際機関と遜色のないものとすることは、自分として譲ることはできない点だっただけに、8週間ほどですが大きく肝を冷やしました*6。所長の任期延長についても同じ投票ルールが適用されます。従って、中国と韓国とASEANの3グループの内2つが任期延長に賛成する必要がありました。所長の任期を延長するかについて各国の思惑が入り乱れ始める(2013年夏~冬)情勢は不透明でした。以下、自分の理解したところを述べますが、自分自身の任期延長の話について、自分には意図的に伝えられなかったこともあり、また、情報にも偏りがあるかもしれないことにご理解をお願いします。任期延長を支持すると思われる国は、小職のこれまでの働きを評価してくれました。国際機関設立協定の作成の前進を重視し、このプロセスは現在の所長に委ねるのが国際機関設立には最速の道である、との理由でした。任期延長を支持しないと思われる国は、小職のこれまでの働きを評価しないという理由でした。加えてAMROという機関のトップを、自分の国ないし地域の出身者がなるべく早くとることを何よりも重視する様子でした。4年も一人の人間が所長の座に留まること自体が耐えがたいようでした。ASEANと日中韓の思惑は入り乱れていましたが、前回述べた米国バーナンキ議長の発言に端を発する市場の動揺への対応に追われる面もあり、正式な議論がなかなか始まらない状態が続きました。*1)通貨スワップというのは、通貨危機時に外貨準備を融通する仕組みです。従って危機時に多くの外貨準備を貢献する意図のある国は、その貢献割合に応じた発言権が定められてきました。AMROの予算負担割合も同率でした。*2)出資額に応じて発言力が決まるという点でIMFと同じ構造です。*3)自分の知る限りこれまでのところ話し合いでコンセンサスを形成することが重視されてきています。*4)第4回(2017年5月号)で述べた自分が早期の国際機関化に消極的だった理由の一つです。当時、(1)AMROの経済の調査・分析を充実させようとする国のグループと、(2)早期の国際機関化を求める国のグループの間には、あまり重なりがありませんでした。特に後者の中には、とにかく国際機関を形式的に作るのがよいと目論んでいる国もあるのでは、と推測されました。こうした状況の下では(1)と(2)の二兎を追うより、まず(1)に専念すべき、との意見を述べていましたが、ASEAN+3当局からは聞き入れてもらえませんでした。*5)読者の中には自分が過度に心配し過ぎている印象を持たれる方もいるかもしれません。この時期は無事に済みましたが、2年後の2015年に国際機関設立協定の各国承認の手続きの中で、手続きの構造から幾つかの国が拒否権を持つに等しい状況が生まれ、その状況をある国が所長(自分)へのテコとして利用しようとしたことがありました。*6)別の対処の仕方として、日本に加えて、中国と韓国とASEANのうちの二者と与党連合を結んでしまう、ということも考えられます。東アジアの政治情勢が微妙であり、日本と中国ないし韓国の方針が異なることが間々あったこと、またASEANについてはその意思決定には時間がかかること等を考えて、自分はその路線は取りませんでした。または取れるような状況ではありませんでした。カンボジアのショッピング・モール風景(1)(四輪駆動のポルシェが展示されています)、本文の記述と関係はありませんファイナンス 2017.1145国際機関を作るはなし ASEAN+3マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)創設見聞録 連 載|国際機関を作るはなし

元のページ  ../index.html#49

このブックを見る