ファイナンス2017年11月号 Vol.53 No.8
46/66

連 載|海外経済の潮流オーストラリアでは2013年以降住宅価格が上昇しており【図表1】、金融規制当局であるオーストラリア健全性規制庁(以下APRA*1)は住宅ローンの規制を強化している。本稿では、オーストラリアの住宅市場について考察してみる。住宅市場については、オーストラリアの中央銀行であるオーストラリア準備銀行(以下RBA*2)の利下げにともない住宅ローン金利が低下しているなど、緩和的な金融環境にある【図表2】が、RBAの金融政策報告(Statement on Monetary Policy)において*3オーストラリアの住宅市場について分析されており、その中で①中国からの不動産投資の増加、②人口増加が住宅市場の原動力(important driver)であること、などが指摘されている。①については、2011-12年度*4にかけて42億豪ドルであった不動産投資(フロー)が、2015-16年度にかけて319億豪ドルとなるなど大きく増加し、不動産投資全体に占める中国の割合も7.2%から26.1%に増加している【図表3】。②については、2002年末には約2,000万人弱であったオーストラリアの人口が、2016年末には2,400万人強となるなど、移民の増加等を背景に【図表4】増加が続いている。住宅価格の上昇が続く中、2014年12月以降、APRAが投資目的住宅ローンに対する監視を強化したこともあり*5、2013年以降上昇傾向が続いていた投資目的の住宅ローン承認額は減少に転じ【図表5の①】、それにともない、2015年末頃には住宅価格の伸びも鈍化【図表1の①】した。その後、2016年以降、投資目的の住宅ローン承認額が再び増加に転じ【図表5の②】、住宅価格も上昇を始めたことから、2017年3月、APRAはさらに住宅ローンに対する監視を強化した*6。現状では、投資目的の住宅ローン承認額は減少傾向にある一方【図5の③】、住宅価格の上昇は続いている【図表1の②】。更には、RBAの政策理事会(10月)の議事要旨において家計の所得に対する住宅債務の割合が増加している【図表6】との指摘がみられるなど*7、新たな問題も顕在化している。今後も住宅市場の注視が必要である。(注)文中、意見に係る部分は全て筆者の私見である。コラム 海外経済の潮流104大臣官房総合政策課 海外経済調査係長 赤嶺 彰一オーストラリアの住宅市場について*1)Australian Prudential Regulation Authority*2)Reserve Bank of Australia*3)2016年4月分 Box B “Chinese Demand for Australian Property”及び2016年8月分 Box B “The Housing Market”*4)オーストラリアの会計年度は、毎年7月1日から翌年6月30日まで。*5)投資目的の住宅ローンの伸び率が前年比10%を超えないようにするべきというガイドラインを示した。*6)インタレスト・オンリー型住宅ローン(返済当初に利息分だけ返済を行う形式のローン)を新規の住宅ローン貸出の30%までに制限、また、引き続き投資目的の住宅ローン貸出の伸び率が10%(前年比)を十分に下回るように求めるなどしている。*7)2017年10月3日“Minutes of the Monetary Policy Meeting of the Reserve Bank Board”において、住宅債務の伸びが家計所得の伸びを上回る旨指摘がある。42ファイナンス 2017.11

元のページ  ../index.html#46

このブックを見る