ファイナンス2017年11月号 Vol.53 No.8
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計上額6億ユーロ)。○全国住宅改善機関を通じた断熱改修に対する支援(同機関への追加的補助として、2018年計上額1.1億ユーロ)。○住宅手当の改革と低家賃住宅の家賃政策の改革(2018年予算において17億ユーロの節約)○国防、治安、司法における取組みを支援(国防予算の増額、国内の治安要員・司法要員の増強)9今後の財政の見通し財政プログラム法案に示された今後の財政の見通しによると、上述のとおり2017年から財政赤字3%以内のEUの目標を達成*24(▲2.9%)し、2018年は▲2.6%、2022年には準均衡状態(▲0.2%)に到達すると見通している*25。また、大統領任期の5年間で、債務残高対GDP比の約5%低下を見通すとともに、歳出対GDP比の約3%低下及び国民負担率の約1%低下を目標に設定している。前述のように、今後5年間の歳出については財政プログラム法案において厳しいキャップを設定しており、財政健全化をしっかり進めていく姿勢が示されている。10フランスはどこに向かうのか伝統的な右派・左派に属さないマクロン政権の誕生は、アンチ・グローバリゼーションの波に屈さず開かれたフランスを目指すための経済改革の実行、失業率の高止まりとともに困難を極めるフランス労働市場改革への果敢な挑戦、分配面を重視しすぎて増大した歳出規模を縮小し財政健全化を行っていくスタンスなど、ともかくも、これまでのフランス政治経済の停滞感を打破する流れを作り出した。しかしながら、フランス人と話していると、規制緩和や投資促進といった形で経済を好転させるのは不公平を助長するだけで、政治の第一の役割は公平性の確保や必要な再分配を行い人がより良く生きられる社会を作り出すことにあると思っている人たちが少なからずいることにも気付く。大統領候補だった急進左派のメランション氏に今でも一定の支持層がいるのも、彼がこうした人たちの受け皿になっているからである。フランス国民が、マクロン政権の経済優先の改革を支持するのか、それともそうした改革は「人がより良く生きられる社会」を隅に追いやると考えて支持しないのか。さらにはマクロン大統領と与党が世論を気にせず、「やるべきことはやる」という姿勢を貫けるか。予算法案には、毎年議会で様々な修正がなされるが、今回の予算法案についてどのような議会修正がなされるかは、今後のフランスの行く先を占う一つの手がかりになるかもしれない。(注)本稿の意見にわたる記述は、筆者の個人的な見解である。また、本稿は原則として平成29年10月10日時点で記述したものである。*24)マクロン大統領は、かねがね、欧州の他の国からのフランスに対する信頼を取り戻してフランスの発言力を確保し、EUの改革を進めていくためには、EUでの約束事である財政赤字3%以内の目標を守ることが必要と発言している。*25)ちなみに、フランスではほとんど注目されていないが、プライマリーバランスは2020年に黒字化される見通しとなっている。(図表6)今後の財政の見通し(財政プログラム法案及びプレゼンテーション資料より)201720182019202020212022財政収支対GDP比▲2.9%▲2.6%▲3.0%▲1.5%▲0.9%▲0.2%うち中央政府▲3.3%▲3.3%▲4.0%▲2.7%▲2.4%▲1.9%うち地方政府0.1%0.1%0.2%0.3%0.6%0.8%うち社会保障基金0.2%0.5%0.8%0.8%0.8%0.8%プライマリーバランス対GDP比▲1.1%▲0.8%▲1.2%0.3%1.1%1.9%歳出対GDP比54.6%53.9%53.3%52.5%51.8%50.9%国民負担率(対GDP比)44.7%44.3%43.3%43.6%43.6%43.6%債務残高対GDP比96.8%96.8%97.1%96.1%94.2%91.4%ファイナンス 2017.1127マクロン政権の誕生、そして初の予算編成 SPOT

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