ファイナンス2017年11月号 Vol.53 No.8
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収規模と解釈するのはミスリーディングであると思われる*21。8歳出マクロン政権においては、フランスの歳出規模(対GDP比)がOECD加盟国の中でも最も高くなっていることに照らし、歳出規模を縮小していくというのが基本スタンスである。すなわち、歳出増加率を名目成長率よりも低く抑える必要があり、この観点から、財政プログラム法案においては、歳出総額から税還付歳出、国債費、国家公務員に係る社会保障負担等を除いた金額を「調整可能歳出」と位置付け、インフレ相当分を除く調整可能歳出の実質増加率が2018年は0.6%、2019年は▲0.4%、2020年~2022年は▲1.0%となるよう歳出限度額を設定している。また、個別分野で見ると、2018年予算法案では、住宅政策の見直しで対前年17億ユーロの大幅な歳出削減がなされたほか、労働・雇用分野でも雇用契約に対する財政支援の見直し等により、対前年15億ユーロの大幅な歳出削減がなされている。また、ダルマナン公共政策・公会計大臣が予算発表時の記者会見で語ったところでは、2018年の歳出削減の見込みは、国において70億ユーロ、地方公共団体において30億ユーロ、社会保障基金において50億ユーロとなっており、国以外の分野でも歳出削減を行うこととされている。一方で、大統領選挙公約に盛り込まれていた500億ユーロの公共投資に関し、9月25日に、フィリップ首相から、5年の任期期間中に570億ユーロと増額された形で「投資計画2018-2022」が発表された。その中では、(1)エコへの移行の加速:約200億ユーロ(2)能力と雇用:約150億ユーロ(3)イノベーションと競争力:約130億ユーロ(4)デジタル世代政府の構築:約90億ユーロの4本柱で重点的に投資を行うことが明らかにされ、このうち2018年の投資分については予算法案において予算措置された*22。このほか、選挙公約を実現するため2025年に対GDP比2%を目指して国防予算の大幅増額を認めたほか*23、司法予算も大きく増額を認めている。さらに、政府の予算定員が全体では減員となった中で、治安分野に関しては約2,000人、司法分野に関しては約1,000人の定員増が認められている。上記の事項を含め、主な予算措置として挙げられるものは以下のとおりである。○成人障害者手当(AAH)引上げにより、障害者自立を促進(2018年計上額97億ユーロ、2017年比7.5%増)。○高齢者連帯手当(ASPA)及び以前の老齢最低保障手当の引上げ。○若年者や求職者への教育のために、職能マッチングや就業促進政策を実施(2018年計上額15億ユーロ、大統領任期合計で140億ユーロ)。○2019年以降、起業あるいは事業を受け継いだ失業者を支援するための社会保険料支払免除措置を、自営業者にも拡大(2019年2億ユーロ、2020年2.7億ユーロ、2021年以降3.1億ユーロ)。○労働に対する報酬が増加するよう、活動手当(低収入労働者に家族手当金庫から支払われる手当)を引上げ(2018年計上額52億ユーロ、2017年比18%増)。○経年車から汚染の少ない自動車への買換え手当を、自動車登録割増税の増税で財源確保しながら拡充(2018年計上額3.9億ユーロ、2017年比12%増)○「エネルギー小切手」により、低所得世帯のエネルギー購入を公平に支援(2018年*21)単純に引き算すれば、マクロン政権自身の税制改正による減収額は▲47億ユーロ(0.60兆円)、2018年単年では▲10億ユーロ(0.13兆円)となる。*22)投資計画の570億ユーロすべてが新たな予算措置の対象ではなく、預金供託金庫(我が国の財政投融資に相当)の融資・投資・保証の活用(110億ユーロ)や既存の投資の組替(120億ユーロ)といったことを行うことで財源面にも工夫がみられる。*23)国防予算は2017年の324億ユーロから2018年は18億ユーロ増額され342億ユーロとなり、以後2022年まで毎年17億ユーロずつ増額される予定となっている。26ファイナンス 2017.11SPOT

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