ファイナンス2017年11月号 Vol.53 No.8
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12.8%、一般社会税17.2%)を適用する*11とともに、富裕層の保有資産に毎年課税される連帯富裕税*12を廃止した上で富裕層の不動産のみに毎年課税される不動産富裕税を創設し、実質的に富裕税の対象から金融資産を除外することとしている*13。このように現状の税制に比べて金融資産の保有を優遇し、投資促進を図ることとしているが、金融資産を多額に保有しているのは所得水準や資産規模が最上位の人達であり、金持ち優遇であるとの批判がかなり出てきている状況である*14。(2)家計の購買力向上マクロン政権は、フランスの国民負担率が他の欧州諸国に対してかなり高く*15、フランスの家計に過剰かつ不公正な形で負担を強いているとの問題意識をもっており、このため家計の購買力を高める施策として、住居税の減税と健康保険料・失業保険料の被用者負担分の廃止を行うこととしている。まず、住居税であるが、これは地方税*16であり、全世帯中の8割の世帯に関して2018年から3年間、毎年3分の1ずつ減額して2020年に廃止することとしている*17。政府は地方公共団体に対し、減収額は国が補填すると約束はしたものの、今回の2018年予算法案や財政プログラム法案にはそのことは規定されておらず、地方公共団体側からは疑心暗鬼の声が上がっている。なお、今回の財政プログラム法案には、地方公共団体全体でネット借入(=借入額-償還額)を毎年26億ユーロずつ減額し2022年までに累積で130億ユーロ減額すべき旨や国と人口5万人以上の基礎自治体(コミューン)等との間でネット借入額等の目標を定める契約を結ぶ旨が財政プログラム法案に規定されており、地方公共団体に対しても、財政健全化への貢献が求められている。また、健康保険料・失業保険料の被用者負担分(所得の3.15%相当)の廃止であるが、これは、一般社会税の税率引上げ(所得の7.5%から9.2%に引上げ)を財源として実施することにしており、いわば退職者も含む全世帯の負担を財源に、勤労者世帯の負担を減らすという施策である。ただし、実施初年度の2018年においては、一般社会税の税率引上げは1月から一度で行うのに対して、保険料被用者負担分の廃止については1月と10月の2回に分けて行うことから、財源確保が先行し、国民全体で見れば一時的に37億ユーロの負担増(国にとっては増収)となる。そして、これは財政赤字目標3%以下の達成を確実にするための予算編成当局の一つの知恵という見方もある*18。一方で、政府は、民間の給与所得者だけを見れば、2018年1月から負担減となり購買力の向上につながると説明しているが、これは図表3のとおり、一般社会税の引上げの影響が所得の1.7%である*11)給与所得等と合算して総合課税方式を選択することも可能。*12)総財産価格から課税対象資産に係る債務を控除した金額が130万ユーロを超えると課税。なお、フランスには相続・贈与税が富裕税とは別に存在。*13)一国民当たり一つの口座しか持てないリブレ・ア口座(上限22,950ユーロ)の利子に対する免税措置は継続。一方で、住宅貯蓄口座(住宅貸付を受けやすくなる定期預金口座、元本上限61,200ユーロ)については、開設後12年を超えない口座については利子免税(12年を超えると税率24%)であったが、2018年1年以降開設されるものについては、他と同じ30%の税率が適用される。これについては、家計の様々な貯蓄手段の中立性(特に税制の中立性)を確保するためと説明されている。*14)例えば日本でも有名になったトマ・ピケティ氏は、連帯富裕税の廃止は歴史的誤りだと厳しく批判している(2017年10月8-9日付ル・モンド紙)。*15)OECDの歳入統計データによれば、2014年における国民負担率(対GDP比)は、フランス45.5%、イタリア43.7%、スウェーデン42.8%、ドイツ36.6%、イギリス32.1%などどなっている。ちなみに、日本は32.0%。*16)フランスでは、地方税は国の法律によって規定されている。*17)この住居税減税による2020年における最終的な減収額は101億ユーロとされている。なお、住居税を歳入とする基礎自治体(コミューン)全体の歳入は2016年で1,282億ユーロ、地方税収は661億ユーロとなっている。*18)37億ユーロの増収は2018年のGDP見込み2兆3,490億ユーロの0.16%に相当し、決して小さい金額ではない。(図表3)一般社会税の税率引上げと保険料被用者負担分の廃止健康保険料・失業保険料の被用者負担分一般社会税~2017年12月31日健康保険料0.75%・失業保険料2.40%計3.15%7.5%2018年1月1日~9月30日健康保険料0%・失業保険料0.95%計0.95%(▲2.2%)9.2%(+1.7%)2018年10月1日~健康保険料0%・失業保険料0%計0%(▲3.15%)24ファイナンス 2017.11SPOT

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