ファイナンス2017年11月号 Vol.53 No.8
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っかけとなり、世論調査の支持率は6月の64%から8月は40%まで低下した。さらに、地方の貴重な財源である住居税を8割の世帯については廃止するという選挙公約の実現を表明し、かつ、地方公共団体に歳出削減を要請したことが主な原因となって、地方議会議員が選挙人の大多数を占める元老院(上院)の選挙(9月24日)で与党「アン・マルシュ」が改選前より議席を減らすなど、マクロン大統領の人気に陰りが見え始める。しかしながら、次で紹介するように、政府提出の2018年予算法案は、マクロン大統領の大統領選挙時の公約をかなり忠実に守るものとなり、ブレない姿勢が貫かれた。62018年予算法案の公表と主な柱フランスでは、予算が法律とは別のものとして憲法上位置付けられている我が国とは異なり、予算は予算法(loi de nances)という法律の形態をとっており、その中に、歳入歳出予算とともに毎年の税制改正も盛り込まれている。さらに、中期的な財政の道筋を定める「財政プログラム法」も制定することとされている*7。「2018年予算法案」と「2018年から2022年までの財政プログラム法案」については、9月27日にル=メール経済財務大臣、ダルマナン公共政策・公会計大臣、グリヴォー経済財務大臣付担当長官が記者会見に臨んで公表したが、その柱をまとめてみると次のとおりであり、需要側・供給側の両面を刺激しつつ、財政規律を守るというオーソドックスな手法をとっている。(1)経済の転換のための投資・イノベーション促進のための措置の実施(供給側刺激策)予算に先立って5年で570億ユーロ相当の投資計画を公表。金融所得に対する統一税率30%の導入、連帯富裕税の不動産富裕税への改組、法人税率の引下げ。(2)家計の購買力の向上のための措置の実施(需要側刺激策)住居税の減税、一般社会税の税率引上げにより財源を確保した上で従業員負担分の健康保険料・失業保険料の廃止。(3)財政健全化の着実な実施財政赤字3%以内のEUの目標を本年2017年から達成。さらに、大統領任期の5年間で、債務残高対GDP比の約5%低下を見通すとともに、歳出対GDP比の約3%低下及び国民負担率の約1%低下を目標に設定。国の一般会計の規模*8であるが、歳出は3,863億ユーロ(2017年対比で15億ユーロ増)で日本円に直すと49.8兆円*9、歳入は3,020億ユーロ(2017年対比で11億ユーロ減)で日本円に直すと39.0兆円となっている。また、歳入のおよそ半分の1,528億ユーロ(19.7兆円)が付加価値税(消費税)の収入となっている。この歳入歳出の見積りの結果、一般会計の財政収支は▲843億ユーロ(2017年対比で26億ユーロの赤字増)で日本円に直すと▲10.9兆円の赤字となっている*10。エリゼ宮のマクロン大統領の執務机*7)財政のプログラム及びガバナンスに関する組織法(2012年法律第1403号)第1条。*8)EU・地方公共団体への歳入譲与分605億ユーロを含むベース。なお、予算上計上されている税還付歳出の金額は含まない。*9)2017年9月における基準外国相場1ユーロ=129円で換算。以下同じ。*10)特別会計まで含めた財政収支は▲829億ユーロの赤字(2017年対比で64億ユーロの赤字増)で日本円に直すと▲10.7兆円の赤字。なお、ここまでの歳出・歳入・財政収支の「2017年対比」とは今回の2018年予算で見直された後の2017年の数値との対比である。22ファイナンス 2017.11SPOT

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