ファイナンス 2017年10月号 Vol.53 No.7
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夏季職員トップセミナー こちらは「ありがとう」のひと言に隠されたたくさんのありがとうを伝えるために、本当は1体の彫刻しかありませんが影で複数のありがとうを映し出すことで、ことばの奥に隠されたたくさんのありがとうの気持ちを表現しています。2015年には、この書の彫刻シリーズでルーブル美術館地下会場で開催されたフランス国民美術協会展で一番いい賞=金賞を受賞しました。6.書と画日本の伝統表現に、絵の中に書で文章や物語を書く表現があります。本阿弥光悦と俵屋宗達がコラボレーションした作品、「鶴下絵三十六歌仙和歌巻(17世紀)」はその傑作とされています。本作を見つめていて気づいたことです。作品の中の文字の強い部分を目で追っていくと、まるで鶴が飛んでいるアニメーションを見ているような鑑賞ができます。ここに何が書かれているのか調べてみたところ、万葉集、三十六歌仙の和歌が書かれているとされていますが、結構文字の抜けがあったり、間違ってもいたり。ということは、文字を意味だけではなくて、造形として絵の中の柄としても扱っていたと推測できます。これらの表現は今世界で「クール・ジャパン」と言われるアニメや漫画の源流だと言えるかもしれません。ここにインスピレーションを得ました。文字を造形として絵の中に加えていくという表現も取り入れ始めたのです。こちらの作品は「喰うカラス、喰われるカラス」。フランスから主賓招待アーティストに選ばれルーブル美術館地下に展示したものです。この作品は、銀屏風にくちばしが折れたカラスを描いているのですが、その手前に文字の彫刻を屏風から50センチ程度離して吊るしています。屏風絵とその彫刻も融合し、さらに、彫刻が屏風に落とした影はまるで屏風に文字が描かれているようにゆれ動きます。影を含めて一つの作品です。7.日本と西洋のチガイ(1)文字の書き方に影響される次は日本と西洋の違いというのを皆さんと一緒に見ていきます。日本と西洋には非常に大きな違いがたくさんあり、それらの多くは言語に起因すると考えています。文字ですね。文字の書き方に影響を受けている。例えば、上の1枚目(上図参照)の絵を見てください。次に、下の2枚目(上図参照)の絵を見てください。そうすると日本人は大体「怒っている人や笑っている人がいた」と分かるのですが、西洋の方は「どちらの絵も同じで、みんな笑っていた」と感じるのです。つまり、西洋にとって重要なのは中心であって、日本は隅々まで意識を目を配ることができる、という違いです。ですので、西洋人たちに向けた何か資料や作品をつくるときには、中心に目がいくように、大切なポイントはセンターにおく仕掛けが重要です。(2)右回りと左回り目の動きは、文字に影響を受けているお話のつづきです。日本の字は、「の」も「ま」も「な」もそうですが、右回りです。これが西洋と真逆です。西洋だけではありませんね。「a」も「b」も「c」も左回りです。これは、当たり前のように何を見て育ち、どのように手を動かして何をつくってきたかが大きな違いを生みます。の文字の強い部分を目で追っていくと、まるで鶴が飛んでいるアニメーションを見ているような鑑賞ができます。ここに何が書かれているのか調べてみたところ、万葉集、三十六歌仙の和歌が書かれているとされていますが、結構文字の抜けがあったり、間違ってもいたり。ということは、文字を意味だけではなくて、造形として絵の中の柄としても扱っていたと推測できます。これらの表現は今世界で「クール・ジャパン」と言われるアニメや漫画の源流だと言えるかもしれません。ここにインスピレーションを得ました。文字を造形として絵の中に加えていくという表現も取り入れ始めたのです。こちらの作品は「喰うカラス、喰われるカラス」、フランスから主賓招待アーティストに選ばれルーブル美術館地下に展示したものです。この作品は、銀屏風にくちばしが折れたカラスを描いているのですが、その手前に文字の彫刻を屏風から50センチ程度離して吊るしています。屏風絵とその彫刻も融合し、さらに、彫刻が屏風に落とした影でまるで屏風に文字が描かれているようにゆれうごきます、影を含めて一つの作品です。7.日本と西洋のチガイ(1)文字の書き方に影響される次は日本と西洋の違いというのを皆さんと一緒に見ていきます。日本と西洋には非常に大きな違いがたくさんあり、それらの多くは言語に起因すると考えています。文字ですね。文字の書き方に影響を受けている。例えば、上の1枚目(下図参照)の絵を見てください。次に、下の2枚目(下図参照)の絵を見てください。そうすると日本人は大体「怒っている人や笑っている人がいた」と分かるのですが、西洋の方は「どちらの絵も同じで、みんな笑っていた」と感じるのです。つまり、西洋にとって重要なのは中心であって、日本は隅々まで意識を目を配ることができる、という違いです。ですので、西洋人たちに向けた何か資料や作品をつくるときには、中心に目がいくように、大切なポイントはセンターにおく仕掛けが重要です。(2)右回りと左回り目の動きは、文字に影響を受けているお話のつづきです。日本の字は、「の」も「ま」も「な」もそうですが、右回りです。これが西洋と真逆です。西洋だけではありませんね。「a」も「b」も「c」も左回りです。これは、当たり前のように何を見て育ち、どのように手を動かして何をつくってきたかが大きな違いを生みます。例えば、本の開き方もそうです。西洋と日本では逆ですね。皆さん、ワイングラスを回すふりをしてみてください。時計回りに回した方。反時計回りに回した方。これもそう。ひらがなは、右回りなので、時計回りに回してしまいがちですが、ワインは西洋で産まれたもので西洋のルールに則っているので左、反時計回りなのです。日本人は逆回しにしてしまいますよね。その国の文字の動きや癖が暮らしに影響を与えます。本来は、ワインが万が一こぼれたとしても自分にかかるように左回りがルールだそうです。例えば、何かを動かすときに時計回りにすると、彼らは理解が難しいのです。お花を生けるときも、こういう木があれば、反時計回りの動きの中に、一つだけ時計回りを入れてあげると彼らが理解できはじめる、きっかけになるそうです。(3)左右対称と左右非対称日本は、禅寺もそうですし、絵もそうですが、左右非対称を美とします。しかし西洋は、左右対称でないと「見えない」そうです。西洋のお庭は日本テレビ『世界まる見え!テレビ特捜部』(2009/8/24)ファイナンス 2017.1049連 載|セミナー

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